【講演録】徹底討論第2弾「どうする原発、日本のエネルギー」澤田哲生氏&吉井英勝氏

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非核の政府を求める兵庫の会は、原発推進の立場をとる原子力専門家の澤田哲生氏と、原発反対の立場をとる元国会議員の吉井英勝氏という、正反対の主張を持つ論客を招いてのシンポジウムを、2016年8月20日に開催しました。このシンポジウムは、もともと5月20日に予定されていましたが、諸事情により延期(5月20日は吉井氏の単独講演に変更して開催)となり、今回はその仕切り直しという形で開催しました。

澤田氏は、東京工業大学で原子炉工学研究所エネルギー工学部門助教を務める、原子力の専門家です。福島第一原発で大事故が発生した際に、連日テレビの報道特別番組に出演したことで有名です。一方、吉井氏は、京都大学工学部で原子核工学を学んだ経歴を持つ国会議員(参院1期、衆院7期、日本共産党所属)として、原発の危険性を国会で何度も追及したことで知られています。

◆吉井氏「東電や安倍首相の不作為の責任は重大」

吉井氏は、5月20日の講演の内容をおさらいする形で、自身が国会議員として安倍首相(第一次安倍内閣当時)に対し、巨大地震の際に電源喪失に陥る危険性に警鐘を鳴らす質問をしたことに言及しました。この質問に安倍首相が「指摘されたようなことは起きない」との判断を示し、結果として福島第一原発の過酷事故を招いたことについて、「安倍首相や東電、歴代政権の不作為の責任は重大である」と吉井氏は批判しました。

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◆吉井氏「原発輸出と原発再稼働は一体不可分」

いわゆるアベノミクスの成長戦略の柱として、海外への原発輸出を安倍政権が推進していることについて、「原発を1基売れば5000億円規模、関連インフラを含めると数兆円規模のビジネスとなる」とし、このビジネスを「原発利益共同体」が推し進めていると評しました。さらに、キーをひねりペダルさえ踏めば運転ができる自動車とは異なり、原発は輸出相手国の技術者の大量養成が不可欠であることから、(生きた教材として)「原発輸出と原発再稼働は一体不可分である」とし、とかく経済面が強調される原発輸出や原発再稼働に隠された裏事情を看破しました。

◆吉井氏「最新の知見に基づく安全対策を超える事態が起きている」

原発輸出に伴う経営上のリスクについても言及。放射能漏れを起こした米国の原発に蒸気発生器を納入した三菱重工が1兆円規模の損害賠償を求められている事案を挙げたほか、「最新の知見に基づく安全対策」により万全の安全対策が講じられているとされてきた原発に対し、その知見や事前想定を超える事態が起き、結果として美浜原発の配管破断死傷事故などにつながっていることを紹介しました。

◆吉井氏「再生可能エネルギーを推進し、原発依存度を段階的に下げる」

吉井氏は、福島第一原発事故後にドイツが設置した原発に関する倫理委員会の事例を引く形で、「安全性を高めたとしても事故は起こり得る」ことや、「ひとたび大事故が起これば、他のどんなエネルギー源よりも危険である」こと、あるいは「現世代が放射性廃棄物というツケを将来に負わせてしまう」といったさまざまな観点から、原発の持つ倫理上の問題点を列挙しました。そして、再生可能エネルギーを推進し、原発依存度を段階的に下げていくことや、原発に依存しない地域づくりや住民自治のあり方についても言及しました。

◆澤田氏「『原発 赤メガネ』で検索すると罵詈雑言が出てくる」

澤田氏は冒頭、「ネットで『原発 赤メガネ』で検索すると、おおむね罵詈雑言が出てくる」と自虐的に語りました。澤田氏といえば、2011年3月に起きた福島第一原発事故の直後から、原子力の専門家として連日のようにテレビに出演し、「安全寄り」ととれる解説をしたことに対して、脱原発派から「御用学者だ」などと烈火のごとく批判を浴びたことは記憶に新しいところです。但し澤田氏は、原発推進の立場をとりつつも、自身も属するいわゆる「原子力村」の抱えるさまざまな問題点について、改めるべき点は大いにあるとの見解を自著等にて示しています。そうした姿勢の表れとして、意見を異にする脱原発派とも、対話や意見交換に積極的に取り組む姿勢をみせています。

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◆澤田氏「世論調査で『原発を増やすべき』は3%しかいない」

澤田氏は、吉井氏が示したNHKの世論調査を引用する形で、「原発を増やすべき」とする意見はわずか3%しかいないことに言及。このような「圧倒的マイノリティ」の世論の中においても、なぜ原発を推進する立場をとり続けているのかについて、以下のように自説を語りました。

◆澤田氏「プルトニウムというエネルギー源を新たに確保できる」

澤田氏は、核燃料サイクルについて、「プルトニウムを使っていこうという政策」と語り、その理由として、「ウラン燃料は、枯渇するとまでは言わないまでも、石油などと同じく、いずれ深い地層まで掘らないと得られない(採掘できない)可能性がある」と語りました。続けて、「今まで大量のウランを掘り出してきたが、実際に燃料として有効に利用しているもの(ウラン235)は0.7%ぐらいしかない。残り(ウラン238)はカスとなっている」と説明。また、ウラン238やプルトニウムを有効活用する策として、MOX燃料を用いるプルサーマル発電を挙げたほか、「ウラン238をプルトニウム239に変換し燃料として使っていくことで、プルトニウムというエネルギー源を新たに確保できる」とメリットを強調しました。

◆澤田氏「2050年~2080年に高速増殖炉&核燃料サイクル実現を目指す」

ウラン238やプルトニウム239を活用していくにあたっての課題として、「もんじゅ」の存在を挙げました。そして、もんじゅがまだ発展途上である点を挙げつつも、「我々は、2050年~2080年に高速炉と核燃料サイクルを閉じる(※止めるという意味ではなく、サイクル=循環を実現するという意味)ことをターゲットとしている」と今後の目標を語りました。加えて、青森県六ケ所村で現在準備が進められている核燃料再処理施設では、高速増殖炉用の燃料組成に対応していない点を挙げ、今後の見通しが不透明ながらも、第2再処理工場の建設計画があることなどを説明しました。

◆澤田氏「海外では高速炉の研究開発を続けている」

澤田氏は、世界における高速炉開発の情勢についても解説しました。それによると、ロシア・中国・インドが研究開発に積極的な一方、日本・アメリカ・フランスは停滞していると紹介。ただ、停滞している国についても、たとえば「アメリカで高速炉は動かしていないが、研究開発の枠組みの中にはしっかりととどまっている」と述べました。

◆澤田氏「高レベル放射性廃棄物の面倒を見る期間が300年程度になる」

高速炉を用いた核燃料サイクルを確立することのメリットして、(長寿命放射性廃棄物を半減期が短い物質に変換することにより)10万年とされる高レベル放射性廃棄物の対応期間が「1万年以下、8000年ぐらいになると我々はみている」と澤田氏は語りました。さらに、「減容をおこなうことにより、数百年、300年程度になる」としました。

◆澤田氏「もんじゅを動かして独自のデータや技術を手中にすることが重要」

澤田氏は、今後の原子力の未来像について、「軽水炉から高速炉にシフトしていく」との見方を示すとともに、現行の原発を改良した次世代原発(第4世代原発)の入り口としてもんじゅを位置付けているとの見解を示しました。そのうえで、「もんじゅを動かして独自のデータや技術を手中にすることが重要と考えている」と語りました。

◆吉井氏「研究機関の中での研究の範囲に閉じ込めるほうがいい」

吉井氏は、1995年のもんじゅナトリウム漏れ事故で、その元凶となった熱電対(※高温の液体ナトリウムの温度を測定するために設置された熱電対(ねつでんつい)と呼ばれる特殊な温度計)を製作したメーカーと話した際の内容に言及しました。それによると、メーカーは「必ず熱電対が振れ(振動)を起こし、ナトリウム漏れを起こすことになるので、(設計を)改めるべきだ」という提言をしていたにもかかわらず、もんじゅの建設を受託していた東芝本体の技術者は「俺は工学をやってきた専門家だ。(下請けの)製造業者が何を言ってるのか」といった姿勢で耳を傾けずに事故を起こしたと解説。「やはりナトリウムを扱う技術そのものが簡単ではなく、熱電対と鞘管という初歩的なところから問題を抱えてきた」と語りました。そして、「小規模な形で基礎研究を積み上げること自体はありうるかなと思う。大学か旧原研のような研究機関の中での研究の範囲に閉じ込めるという扱いで考えたほうがいいのではないか」との見解を示しました。

◆聴講者「20年も30年も全く何もできてないのに『将来』を言われても非現実的」

吉井氏と澤田氏のそれぞれの意見を受けて、聴講者からはさまざまな意見が寄せられました。特に、もんじゅを今後も動かすことの意義を強調した澤田氏に対しては、「20年も30年も全く何もできていないのに、将来(高速炉や核燃料サイクルが実現する将来像)を言われても非現実的だ」「一般の人間は、新聞に書かれている情報が正しいと思って判断する。(虚偽ではない真実の)情報が共有されていなければ、(公平公正な)議論は成り立たない」といった主旨の、もんじゅに関する正しい情報開示が不足しているままの状況で、今後の取り扱いについて判断することに対する鋭い批判意見が提起されました。このほか、核融合や系統連携に関する質問なども聴講者から寄せられました。

◎シンポジウムの概要

非核の政府を求める兵庫の会市民学習会
徹底討論!第2弾 どうする原発、日本のエネルギー
原発賛成・原子力研究者 澤田哲生 VS 原発反対・元国会議員 吉井英勝

日時:2016年8月20日(土)14:00~17:00
会場:兵庫県保険医協会6階会議室

ゲスト:澤田哲生さん(東京工業大学原子炉工学研究所
吉井英勝さん(元衆議院議員、原発・エネルギー・地域経済研究会)

主催:非核の政府を求める兵庫の会

協賛:市民社会フォーラム

◎ゲストのプロフィール

澤田哲生(さわだ・てつお)さん
1957年兵庫県生まれ。東京工業大学原子炉工学研究所エネルギー工学部門助教、東京工業大学博士(工学)。
1980年、京都大学理学部物理科学系卒業後、三菱総合研究所に入社。
1989年よりドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員。1991年より東京工業大学原子炉工学研究所助手。
専門は核融合学、宇宙炉工学、原子核工学、環境技術・環境材料。
特に原子炉物理、原子力安全(高速増殖炉の炉心崩壊事故および軽水炉の過酷事故、核融合システム安全など)、核不拡散・核セキュリティの研究に従事。
『つーるdeアトム』を主宰し、原子力立地地域の住民と都市の消費者との絆を結ぶ活動などを行う。日本エネルギー会議の発起人のひとり。
著書に『御用学者と呼ばれて: 「推進派VS脱原発派」という不毛な対立を乗り越えるために』(双葉新書)ほか。

吉井 英勝(よしい ひでかつ)さん
1942年京都市生まれ。京都大学工学部原子核工学科を卒業後、1967年より真空技術会社勤務。
堺市議(28歳~)3期、大阪府議1期、参議院議員1期を経て、90年大阪旧4区から衆議院初当選。2012年11月まで衆議院議員を7期勤める。
この間、日本共産党中央委員、同党原発・エネルギー問題委員長を務める。
東日本大震災が発生する以前から、災害などによる原発の電源喪失時の危険性を国会で再度にわたって指摘、質問をしており、
2011年に発生した福島第一原子力発電所事故で現実のものとなったことで各種のメディアで注目された。
国会議員引退後、現在、原発・エネルギー・地域経済研究会(略称:吉井研究会)を立ち上げている。