【講演録】野口邦和さん講演『4年目の「福島の真実」 脱原発と核兵器廃絶の願いとともに』

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日時:2015年4月18日14時〜
講師:野口邦和さん(日本大学准教授)
主催:非核の政府を求める兵庫の会
場所:兵庫県保険医協会 会議室

市民学習会 4年目の『福島の真実』
現場の経験と豊富なデータで福島原発事故の影響を知る

 4月18日に開催された市民学習会では、非核の政府を求める会(全国)常任世話人の野口邦和・日本大学准教授が「4年目の『福島の真実』 脱原発と核兵器廃絶の願いとともに」と題し講演。60人が参加しました。

 野口氏は、3・11福島原発事故から4年目となる今、福島の放射線汚染はどんな現状なのか?福島に人は住めるのか?福島の食品は食べても大丈夫なのか?という素朴な疑問について、福島県の自治体で放射線防護の専門家としてアドバイザーを務めている経験からお話しました。
 講演では、まず放射線の基礎知識として、放射能とその強さ、ベクレルとシーベルトという単位、半減期の意味などを解説。そして、福島原発事故による環境への放射線の放出料について空間放射線量や汚染水の状況、福島県内の魚介類検査数及び基準値超の食品の数と割合、南相馬市立総合病院の子どものWBC(ホールボディカウンター)による検査データ、朝日と京大の共同調査はじめ日本生協連や福島県などの陰膳方式による内部被ばく線量調査といった豊富なデータを示しながら、放射線汚染の程度について詳しく述べられました。
 内部線量を下げるためには、行政がすることとして、食品の放射能濃度をしっかり監視すること、市民がすることとして、①食品を購入する場合、数値(放射能濃度)を選ぶこと、②自家栽培の米・野菜の場合、放射能濃度を行政に測定してもらうことであるとして、放射能濃度が相対的に高い食品は限られているので、食品として流通していない①きのこ・山菜、②川魚、③福島県沖の底魚(現在、出荷制限中)、④鳥獣類の肉について注意を払うべきとしました。
 放射線障害の特徴として、発がんと白血病の場合、第一に症状の非特異性、つまり放射線障害に特有な症状はないとし、発がんを例にとると、喫煙習慣、食生活(飲酒を含む)などの生活習慣、ウィルス感染、環境汚染、化学物質暴露などの外的因子、あるいは遺伝的素因、内分泌因子、ストレスなどの内的因子が原因の発がんと区別できないこと。第二に、症状の遅発性、つまり数年、数十年を経たのちに現れるものもあることをあげました。
 原子力発電の欠陥としては、①発電用原子炉の安全性が十分に確立していない(老朽化問題、地震・津波)、②高レベル放射性廃棄物が安全に処分できる見通しがない、③軍事利用に転用される恐れがある(核兵器が廃絶されなければらない)、④原発のテロの危険性(9.11事件の教訓)をあげました。
 質疑応答も活発に交わされ、福島県健康調査での甲状腺がんの「多発生」については、スクリーニング効果や過剰診断によるもので、原発事故の放射線汚染によるものとは考えにくいが、結論を決めつけず長い期間でみることが必要とし、「予防原則」としても放射性ヨウ素が消えている現在では、検査を続けていくこと以外にあり得ないとしました。

あわせて、講師の野口邦和さんから、視聴者からの質問と当日応答しきれなかった質問への補足の回答をいただいたので、公開いたします。
以下、野口さんの回答です。
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日本大学の野口邦和です。非核の政府を求める兵庫の会主催の4月18日の私の講演に対する疑問が脱原発MLに載っていました。いつでも疑問に回答する余裕はないのですが、講演会主催者の依頼により以下に回答します。【疑問①】放射能量の放出量をチェルノブイリと比較していますが、爆発時の比較だけであって、福島はその後もずっと出続けている事は、カウントされていませんでした。福一は、水素爆発を避けるために、常に窒素が吹き込まれているそうで、その為、水素即ち放射能も一緒に常に出続けているそうです。(海の汚染を考えると更にさらにですが。)

(野口)大気放出量は大規模に放射性核種が放出された2011年3月末または4月初めまで含まれています。その後も大気放出は続いていますが、その放出量をすべて加算しても、2011年3月末または4月初めまでの放出量の1%以下に過ぎません。この件はスライドを見せて、説明しました。海洋放出量についても同様のことがいえます。2011年5月末までの海洋放出量と比較すると、その後の海洋放出量をすべて加算しても、1%以下に過ぎません。もちろん大気中にも海洋中にも放出され続けている状況は決して好ましいことではなく、放出を止める必要があることも講演でお話ししました。

【疑問②】爆発時に燃料そのものと考えられる物質も出ている事が、確認しされていますが、揮発性の物だけのような表現でした。量は少なくてもプルトニウムも出ていますし・・・。

(野口)常温で気体状の核種と揮発性核種が主に環境に放出されましたが、揮発性と不揮発性の中間のストロンチウム90や不揮発性のプルトニウムも環境に漏れ出たことについて講演でお話ししています。漏れ出たのは「揮発性の物だけ」などとは言っていないので、どうぞ映像でご確認ください。ただ、スライドを見せながら、ストロンチウム90とプルトニウムの漏れ出た量は無視できるほど小さいこともお話ししたと思います。ストロンチウム90については、スライドを見せて詳しく説明しました。プルトニウムについてはスライドを用意してなかったので詳しく説明しませんでした。もし関心がおありであれば、『放射線被曝の理科・社会』の80~81ページをご覧ください。

【疑問③】炉内の温度が40度以下? 2014年12月の時点で、60~70度以下東電公表であります。

(野口)スライドをよくご覧ください。現在まで常時監視されているのは原子炉圧力容器底部の温度と格納容器内温度です。それが2012年夏季以降現在まで、夏季であれば25~40℃、冬季であれば10~25℃ほどで季節変動をするようになっていると講演でお話ししました。これは東京電力のホームページに出ています。「炉内の温度」は測定していないと思います。

【疑問④】フクシマ以前のWBCでのCs137の20ベクレルは、核実験でなく、チェルノブイリ由来では?(輸入食品は350Bq/kgですから)

(野口)チェルノブイリ原発事故によるヨーロッパからの輸入食品の厚生省(当時)の規制値(暫定限度)はセシウム137およびセシウム134の放射能濃度として合計370Bq/kgです。ご指摘の「350Bq/kg」は間違いです。福島原発事故以前の私自身のWBCの測定値は、正確に表現すれば大気圏内実験とチェルノブイリ原発事故に由来するものです。ただ、大気圏内実験に由来する割合の方が大きいため、大雑把に大気圏内実験由来と講演でお話ししました。他意はありません。

【疑問⑤】海水中のCs137 とSr90の測定は、ずっと行われており、海上保安庁のHP放射能調査結果と概要掲載

(野口)海水、海底土、海洋魚介類のセシウム137濃度とストロンチウム90濃度の監視が続けられていることは講演でお話ししました。ただ、海水、海底土、海洋魚介類のストロンチウム90濃度の分析値は、セシウム137の分析値と比較するとはるかに少ないため、ストロンチウム90濃度の測定を充実させる必要があります。そのことを強調しました。

【疑問⑥】海水の汚染は、事故直後だけでなく、現在も漏れ続けていて、莫大な量のはず。

(野口)①の回答をご覧ください。なお、海洋に「莫大な量」が漏れ出ているかといえばそういう事実はなく、海水についてはスライドを見せて説明しました。海洋魚介類の放射性セシウム濃度の減少傾向についてもアイナメ、シロメバルを例に説明しました。

【疑問⑦】貝の汚染は、10数ベクレルで一定になっている。検出限界云々と言っているが、問題になる値。ICRPの報告でも、毎日10ベクレルで3年で1600ベクレル蓄積。

(野口)誤解があるようです。問題にはなりません。現行規制値は放射性セシウム濃度として年1mSvを超える内部被曝をしないように決められています。実際の測定では、セシウム137とセシウム134の放射能濃度をそれぞれ求め、合計して放射性セシウム濃度としています。たとえば、仮にセシウム137濃度が検出限界以下、セシウム134が検出限界以下とした場合、両者の検出限界値がともに6Bq/kgであるとすると、検出限界値は12Bq/kg以下となります。いずれにせよ一般食品の現行規制値は100Bq/kgですから、現行規制値よりもはるかに低い検出限界値であり、問題にはなりません。

【疑問⑧】WBCの検出限界以下の検出限界は何ベクレルか?通常は300と聞いていますが、20ベクレル/体があるのですか?

(野口)あります。WBCに限らず、一般に放射線測定器は、放射線検出器の種類、放射線検出器の大きさ、測定時間、遮蔽の状態、測定試料の形状や重量などによって変わります。WBCの検出限界値がいつでも300Bqというわけではありません。福島県本宮市では当初250Bqの検出限界値で測定していたのですが、現在は300Bqの検出限界値で測定していることも講演でお話ししたはずです。検出限界値が20BqほどのWBCもありますが、これはそれこそ研究用です。価格の問題もあります。現在の福島県のように測定希望者が多数いる場合には、市販の1台4000万~4500万円ほどのWBCを利用する場合、検出限界値は300Bqくらいになるのはやむを得ないところです。ただ、成人であれば、体内のカリウム40が4000Bqほどあり、これに起因する実効線量が年170μSvほどであることを踏まえれば、300Bqの検出限界値で測定すれば、十分であると私は思います。どこの自治体もそれで十分であると判断しているからこそ、300Bqほどの検出限界値の下で測定しているのです。なお、東京大学の早野龍五教授らがメーカーと共同開発した乳幼児専用のWBCであるベビースキャンの検出限界値は50Bqほどです。こちらは1台9500万円ほどするようです。

【疑問⑨】甲状腺の検出は、大きさで決めているので、検査器の性能向上とは関係ないのでは。結節5mm、嚢胞20㎜以上をBにしていると思いますが。

(野口)誤解があるようです。判定基準について述べたのではなく、現在福島医科大学などで使っている超音波検査装置の分解能が非常に高く、1mm刻みで測定・監視ができているという意味で講演の中でお話ししました。

【疑問⑩】弘前市、甲府市、長崎市で行った甲状腺検査は、年齢分布が福島の場合と異なり、年齢の大きい子が多いので、年齢依存性の強い甲状腺ガンを比較するには適切でないと思いますし、人数も6000人と少なく、10数万人の福島との正しい比較にはならないと疫学の専門家が言っておられます。

(野口)弘前市、甲府市、長崎市の子どもの甲状腺検査結果について述べたのは、福島県内だけでなく日本全国で子どもの甲状腺検査をするべきであるとする意見に対して、都道府県によって各種のがんの罹患率や死亡率がかなり異なるので、福島県内から日本全国に広げたからといって、決して明確な結論が得られるわけではないということを最初に講演の中で申し上げました。その上で、そういう意見もあるので、参考までに実施した放射性ヨウ素による甲状腺被曝の影響がないと考えられる弘前市、甲府市、長崎市の子どもの甲状腺の検査結果を紹介しました。年齢分布の違いなどについても実施者側は承知しておりますし、私も承知しています。人数が6000ほどであることも講演の中で述べた上で、A2判定割合、B判定割合が福島県の子どもと大きく変わるわけではないと紹介させていただきました。

【疑問⑪】六ヶ所村での健康診断では、子どもの甲状腺ガンは、全く出ていないそうです。データがないと言っておられたけど、六ヶ所にはあるようです。人数は少ないでしょうが。→未確認ですが、最近聞きました。

(野口)六ヶ所村の人口は成人を含め2015年2月1日現在で10800人弱だそうです。日本の年少人口(0~14歳)が平均13%だそうですから、18歳以下の子どもの人口割合を15%ほどと仮定すると、およそ1600人くらいです。上記⑩で6000人の人口では少ないと調査を批判した人が、今度は1600人ほどの調査で「子どもの甲状腺ガンは、全く出ていない」と発言するとは、いったいどういうことでしょうか。理解に苦しみます。そもそも未確認情報であるならば、確認した上で質問してください。

以上が疑問に対する私の回答です。これ以上のやり取りは遠慮させていただきます。

なお、講演中の質疑応答の中で、ある女性から陰膳法について、食事中の放射能濃度が示されていないという質問が出されました。その方がいっぱい質問されたので、メモをとるのを忘れ、この件について回答できなかったため、この場を借りて回答します。日本生協連なり、福島県なり陰膳法の実施者の報告書を見れば分かります。食事中の放射能濃度などは発表されています。内部被曝量がどの程度になるかが重要なので、スライドに余白がなかったために、放射能濃度や1日の食事量を私がスライドに出さなかっただけのことです。関心がおありでしたら、陰膳法の実施者の報告書をご覧ください。

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以上が野口さんの回答ですが、講演動画を視聴された方で専門的知見がある方にも、野口さんへの疑問を紹介しましたらご回答いただいたので、こちらに掲載いたしました。。