パネリスト:澤田哲生さん、舘野淳さん、本島勲さん コーディネーター:児玉一八さん
■□■市民社会フォーラム協賛企画■□■
非核の政府を求める兵庫の会 市民学習会
徹底討論! どうする原発、日本のエネルギー
原発「賛成」「反対」の論客が、真摯に語り合う
日時 2015年9月5日(土)14:00~17:00
会場 兵庫県保険医協会5階会議室
主 催 非核の政府を求める兵庫の会
協 賛 市民社会フォーラム
3.11福島原発事故以降、世論調査では脱原発は多数となっていますが、安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」として再稼働をはかり原発依存から脱却をはかっていません。他方で、原発の技術やエネルギー需給について、立場の異なる専門家同士で議論し、その成果を市民に示し選択肢を考える材料も十分提供されていません。
安全で安定的なエネルギー政策はどうあるべきか合意形成をはかるためにも、原発推進派と反対派との間でも共通の課題で討論するなかで、市民の関心を高め考える機会を広げることはとても大切なことだといえます。とくにお互いの言い分を理解したうえで批評するコミュニケーションをはかることが大事であり、今回の公開討論会を開催するはこびとなりました。
原発推進の立場からはTV討論会などでおなじみの東京工業大学の澤田哲生さん。原発反対の立場からは原発の技術的問題に詳しい舘野淳さんと、エネルギー問題に詳しい本島勲さん。コーディネーターに原発問題の住民運動にながらく携わっている児玉一八さん。
澤田さん以外は原発に批判的な論客ぞろいですが、原発擁護の言い分をしっかり理解するために澤田さんに十分時間をとってお話いただきました。
■澤田哲生(さわだ・てつお)さん
東京工業大学原子炉工学研究所エネルギー工学部門助教、東京工業大学博士(工学)。1957年兵庫県生まれ。
1980年、京都大学理学部物理科学系卒業後、三菱総合研究所に入社。
1989年よりドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員。
1991年より東京工業大学原子炉工学研究所助手。
専門は核融合学、宇宙炉工学、原子核工学、環境技術・環境材料。
特に原子炉物理、原子力安全(高速増殖炉の炉心崩壊事故および軽水炉の過酷事故、核融合システム安全など)、核不拡散・核セキュリティの研究に従事。
『つーるdeアトム』を主宰し、原子力立地地域の住民と都市の消費者との絆を結ぶ活動などを行う。
日本エネルギー会議の発起人のひとり。
著書に『御用学者と呼ばれて: 「推進派VS脱原発派」という不毛な対立を乗り越えるために』(双葉新書)ほか。
■舘野淳(たての・じゅん)さん
核・エネルギー問題情報センター事務局長、日本科学者会議原子力問題研究委員。
1936年旧奉天市生まれ。1959年東京大学工学部応用化学科卒業、工学博士。
日本原子力研究所研究員を経て、1997年から中央大学商学部教授。2007年中央大学退職。
元日本科学者会議原子力問題研究委員会委員長。
著書に『廃炉時代が始まった』、共著に『地球をまわる放射能』、『どうするプルトニウム』、
『徹底解明東海村臨界事故』、『動燃・核燃・2000年』、『地震と原子力発電所』など。
■本島勲(もとじま・いさお)さん
核・エネルギー問題情報センター常任理事、日本科学者会議原子力問題研究委員会委員。
東京都出身。元電力中央研究所主任研究員(岩盤地下水工学)
、工学博士。ダムや発電所などの電力施設及び原子力発電所、高レベル放射性廃棄物の地層処分などにかかわる地下水工学の技術開発、課題に従事。
1998 年定年退職。元中央大学兼任講師、元日本科学者会議事務局次長・研究企画部長・エネルギー問題研究委員会委員長。
現在、千葉県革新懇代表世話人、世界遺産屋久島町親善大使。
共著に『日本のエネルギー問題』、『今日の地球環境』、『日本の科学技術』など。
■コーディネーター 児玉一八(こだま・かずや)さん
核・エネルギー問題情報センター理事、原発問題住民運動全国連絡センター代表委員、日本科学者会議原子力問題研究委員会委員。
1960年、福井県武生市(現・越前市)生まれ。1980年、金沢大学理学部化学科在学中に第1種放射線取扱主任者国家免状を取得。
1984年に金沢大学大学院理学研究科修士課程、1988年に金沢大学大学院医学研究科博士課程を修了。医学博士、理学修士。
著書に『活断層上の欠陥原子炉 志賀原発』、共著に『さし迫る原発の危険』、『放射線被曝の理科・社会』など。
市民学習会 公開討論会
原発『賛成』『反対』の論客が真摯に語り合う
非核の政府を求める兵庫の会主催の市民学習会「徹底討論! どうする原発、日本のエネルギー 原発『賛成』『反対』の論客が、真摯に語り合う」が9月5日に保険医協会会議室で開催され、60人が参加しました。
3・11福島原発事故以降、世論調査では脱原発は多数となっていますが、安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」として再稼働をはかり原発依存から脱却をはかっていません。他方で、原発の技術やエネルギー需給について、立場の異なる専門家同士で議論し、その成果を市民に示し選択肢を考える材料も十分提供されていません。安全で安定的なエネルギー政策はどうあるべきか合意形成をはかるためにも、原発推進派と反対派との間で共通の課題として討論するなかで、市民の関心を高め考える機会を広げることはとても大切なことだといえます。とくにお互いの言い分を理解したうえで批評するコミュニケーションをはかることが大事であり、今回の公開討論会を開催する運びとなりました。
原発推進の立場からはTV討論会などでおなじみの東京工業大学の澤田哲生さん。原発反対の立場からは原発の技術的問題に詳しい舘野淳さんと、エネルギー問題に詳しい本島勲さん。コーディネーターに原発問題の住民運動に携わっている児玉一八さんでした。
舘野さんは、原発の歴史的問題と技術的問題について講演。「福島事故」はスリーマイル、チェルノブイリに続く商用炉における3番目の「シビアアクシデント」(設計基準事故を超える事故)、初の複数号機の同時進行事故である以上、地震という自然災害との複合事故、外部要因事故、共通要因事故でもあり、予防や収束の極端な困難さがあるとし、重大な「教訓」として原子力技術の現時点での実像・実態が示され、「専門家」の信頼性失墜、倫理的責任だけでなく、原子力技術をどう見極めるか、科学者・技術者の能力(科学的内容)責任が問われているとしました。
また、従来の多重防護(縦深陣地defense in
depth)に加えて、それを突破された後の措置がシビアアクシデント対策だが、これは一種の「本土決戦論」であると指摘。事故収束は時間との競争で、特に自然災害はシナリオのないドラマで成功する保証はなく、個々の対策の前に、推進する専門家は原子力(軽水炉)技術をどう見ているかが問われているとしました。 そして、今やるべきこととして、①先ず再稼働ありきではなく、軽水炉技術、核燃料サイクル技術という技術の実態・本質についての「専門家」としての見解を明確にすること、②国民的コンセンサスを作ること、③政治権力で科学技術政策を強行しないこととして、結論として、軽水炉利用を中止し、核燃料サイクル(プルトニウム、放射性廃棄物の処分)も全面的も再検討し、福島事故
の収束などやるべきことは多いとしました。
2015年9月27日 非 核 116号 (2)
本島さんは、エネルギー問題・再生可能エネルギーについて講演。自然(再生可能)エネルギーの開発は、地域固有のエネルギー・財産を、地方自治体と住民との協働、住民自らの手と資金(基金)による開発が重要であり、それは、住民自らの手による新しいエネルギー政策、電力システムへの具体的な転換であるとしました。そして、地域社会、日本の将来を展望する課題であり、自然と共生した循環系社会を展望することとなり、大規模工場を中心とした大量生産、大量消費の産業構造、エネルギー大量消費・外需主体の産業構造、生活から自然と共生する農林漁業、地場産業、低エネルギー循環型・内需主体の産業構造、生活への転換が求められているとしました。
さらに、「6つの提言」として、①原発の是非を問う国民大運動で最終的に国民投票を実施すること、同時に核エネルギーに係わる研究・開発を推進すること、②当面する原発の運転に当たっては行政権をもち政府から独立した原発運転監視委員会(仮)付属研究機関を設立すること、③大口需要の大企業は自助の責任で自家発電などの電源開発を行うこと、④地方に分散する自然エネルギーを地方自治体の下に市民参加による「おらが村のエネルギーはおらが村の自然エネルギー」を推進すること、⑤エネルギー多消費 自然破壊の大量生産・大量消費から自然と共生する農林漁業・地場産業を育成すること、⑥電気事業法・関連法規を改定して電力会社による電気事業を廃して電力産業を確立し、公共事業
としての社会的責任を明確にするとともにエネルギーの地産地消を推進する法的体制を確立すること、を挙げました。
澤田さんは、本島さんと舘野さんの講演内容を踏まえて講演。軽水炉発電は熱バランスで事故が起きるので、高速炉こそが理想的だが、今では初期の軽水炉から故障や事故を経験しながらそこから学び良くなってきており、福島第一原発の事故もその延長にあるもので、アリストテレスを引用し、事故によって物事の本質がわかり、そこから未来がみえてくるとしました。
また、40年から60年で廃炉になる一つの原発がシビアアクシデントになるのは、確率的にはゼロにはならないにしても、1原子炉あたり1000年に1回程度(10-3/炉年)以下であり、それでも外付け・後付けのシビアアクシデント対策として、川内原発では復水タンクなどを秒速100メートル竜巻にも対応できる金属製の網(通称“鳥かご”)で覆っていることをはじめ、移動式ポンプ車、移動式電源車など複数台場所を分けて置いているなど、事業者は数千億円の対策をしていることを紹介しました。
さらに、福島事故で大気中に放出された放射能の排出量の推移について、最初の1号機と3号機の水素爆発でベント操作が働いていた時期に原発の正門周辺で計ったら、10mSv/年台の放出で推移していたので、ベント操作の機能が働き、格納容器のドーナツ状の水たまり部分(サプレッションチェンバー)に燃料がとどまれば、この程度でおさまることを強調しました。
そして、「原子力村」ではない研究者からも、放射線防護の基準であるLNT(しきい値なし)モデルへの疑義があるとして、物理学者の坂東昌子さんと真鍋勇一郎さんらの「モグラたたきモデル」を紹介。それによれば、LNT仮説は成り立たず、放射線が徐々に体内へ貯まっていくという「預託線量」の考え方も成立せず、低線量では放射線被ばくに対して人間には修復機能あり、いずれ追いつくから病気にならずほとんど影響がないというのであるとしました。
討論と参加者との質疑応答では、科学者の責任、テロ対策、避難訓練、最終廃棄物処理、国民投票などなど多岐にわたり、あっという間に3時間が過ぎました。おそらく参加者の多くは、原発推進と反対での激論が期待されたかと思いますが、出演者相互で再稼働の是非・安全性、最終廃棄物処理などをめぐっては見解の相違はありつつも、理性的で専門的なディスカッションとなりました。コーディネーターの児玉さんは、「今回は初めての試みの討論会なので、引き続き開催したい」とまとめました。