【講演録】吉井英勝氏講演「熊本地震の中でも、なぜ川内原発停止と調査研究に進まないのか」

投稿日:

京都大学原子核工学科卒の国会議員として、国や原子力ムラの姿勢を追及してきた吉井英勝氏による講演です。この日は、もともと「徹底討論第2弾 どうする原発、日本のエネルギー」と題し、テレビ解説や討論番組等への出演で知られる澤田哲生氏(東京工業大学)と吉井氏との討論会を予定していましたが、事情により討論会が延期(※澤田氏と吉井氏の討論会は2016年8月20日に開催します)となったことから、急きょ吉井氏による単独講演会として開催したものです。講演で吉井氏は、「熊本地震の中でも、なぜ川内原発は停止と調査・研究に進まないのか」という課題を提起し、原発の抱えるさまざまな問題について詳細な解説をおこないました。

◆原発事故が地域社会や家族関係を破壊

吉井氏は、原発の抱える諸問題について考えるうえで最も重要なのが「福島原発事故の現実に立ち戻って考えること」と述べました。また、当初の移住者が約17万人、現在も約10万人が強制移住状態にあるほか、自主避難者も多数いる状況を挙げ、「地域社会が壊され、家族関係にまで被害が及んでくるという、とんでもない事態になったのが福島原発事故である」と語りました。そして、私たちが原発やエネルギーを考えるときに、このことを出発点とすべきであるとしました。

特に、原発事故直前の2010年度は、福島県12市町村の小中学生が1万2424人を数えましたが、2015年度は3687人に減少していることを説明。また、原発事故によって放出された放射性物質の除染作業は、除染ではなく移染にすぎないこと、そして除染作業によって除去されたさまざまなものを詰めたフレコンバッグが、被災地に数百万個も山積みされていることを挙げ、原発事故が地域や人々にひどい傷跡を残し、それがいまも続いていることを強調しました。

◆地球46億年の中で12万年は一瞬に近い

原子力規制委員会の規制基準において、「活断層の可能性」についての判定を、12万年あるいは40万年などと区切って判定していることについて、「人間にとっては長く感じるが、地球46億年の時間軸の中では、12万年はほんの一瞬に近い」とし、地球の46億年の歴史の中において何度も地殻変動があったことから、数十万年という短いスパンで安全性を定義することに疑問を呈しました。

◆人間の時間軸の中でさえも「思考停止」

地球46億年の歴史において数十万年というスパンで安全性を定義することすらも疑問であるにもかかわらず、それに比べて極めて短い人間の時間軸でさえも「思考停止」に陥っていることを吉井氏は嘆きました。特に、2004年に起きたインドネシア・スマトラ沖地震による津波で、遠く離れたインドのマドラス原発が損傷(非常用海水ポンプが水没)し、津波で原発が被害を受けるということが経験的に明らかになったにもかかわらず、日本では深く考えられてこなかった状況を紹介しました。

◆東電・安倍政権・歴代政権の不作為

2006年に、当時の原子力安全・保安院とJNES(原子力安全基盤機構)が開催した「溢水(いっすい)勉強会」についても紹介。これによると、津波被害試算の提示を求められた東京電力が、この場において、津波の波高15mでタービン建屋等に津波が浸入し全電源喪失になることを試算していました。にもかかわらず、東電は有効な津波対策を講じませんでした。また、巨大地震によって全電源喪失に陥る可能性を指摘した吉井氏の「質問主意書」に対し、安倍晋三首相(第一次安倍内閣)が、「ご指摘のようなことは起こらない」「安全確保に万全を期してまいる」なとど答弁したことを挙げ、「東電、安倍首相、歴代政権の不作為の責任が問われる」と述べました。

◆安倍首相は「原発輸出の営業課長」

2016年4月の熊本地震の発生直後、JR九州は新幹線も在来線も全線で運休し、設備点検等の安全確認を実施しました。しかし、川内原発の運転は停止しませんでした。これについて、「彼ら(電力業界)は、浜岡原発停止のトラウマがあるのではないか」と述べ、一度運転を止めると、(反対運動等によって)再稼働が難しくなるため止めるのを嫌った可能性を指摘しました。また、川内原発を停止しないばかりか、停止中の他の原発の再稼働を急ぐなど、電力業界の前のめりな姿勢が目立っていますが、吉井氏は「原発輸出と原発再稼働は一体不可分」と指摘。危険な原発をトップセールスで売り込む安倍首相を「原発輸出の営業課長」と揶揄しました。

◆川内原発稼働は「あまりに気楽」

原発の危険性を論じるうえで九州地区で頻発している地震が今後どのように推移していくかについての研究が必要であると述べ、それをせずに川内原発の稼働を続けるのは「あまりに気楽な考え方」と批判しました。あわせて、中日本から西日本にかけて東西に走る巨大断層「中央構造線」の近傍に浜岡原発や伊方原発が位置していることを図示。また、無数に走る活断層の連続性の判断についても疑問を呈し、熊本地震を機に、川内原発に影響が及ぶ前提でもっと調査を深めていくべきとの考えを示しました。

◆火山の大噴火による影響も考慮すべき

地震の影響のほかにも憂慮すべき点として、九州に多数林立する火山の影響についても語りました。このうち、川内原発に最も近い「姶良(あいら)カルデラ」が大噴火を起こし、大規模な火砕流が川内原発を襲う可能性についても言及。川内原発周辺の地質を調べた結果、過去に火砕流が到達した可能性を指摘する専門家の意見があるにもかかわらず、政府や電力会社はそれを否定していることに憂慮を示しました。

吉井氏は、このほかにも、いわゆる「原子力ムラ」が牛耳る原発特有の利権構造を「原発利益共同体」と批判したほか、普及が進むドローンを使用したテロへの懸念、さらには原発依存から抜け出すための提言など、豊富な知見に基づくさまざまな解説をおこないました。詳細をぜひ動画にてご確認ください。(了)

 
 
吉井英勝氏の講演レジメ(PDF)
 

吉井英勝氏の講演スライド

※討論会で使用する予定だった澤田氏の資料も参考として掲出いたします。
澤田哲生氏の報告ペーパー(PDF)
 
 
 
◎講演概要
■□■市民社会フォーラム協賛企画■□■
非核の政府を求める兵庫の会市民学習会
吉井英勝氏講演「熊本地震の中でも、なぜ川内原発は停止と調査・研究に進まないのか」
(旧題「徹底討論第2弾 どうする原発、日本のエネルギー 」)
日時:2016年5月21日(土)14:00~17:00
会場:兵庫県保険医協会5階会議室

         http://hhk.jp/pages/access.php
      (JR・阪神「元町」駅下車東口から南へ徒歩7分)    
会 場 兵庫県保険医協会5階会議室
協賛 市民社会フォーラム
 
◎講師プロフィール 
吉井 英勝(よしい ひでかつ)さん
1942年京都市生まれ。京都大学工学部原子核工学科を卒業後、1967年より真空技術会社勤務。堺市議(28歳~)3期、大阪府議1期、参議院議員1期を経て、90年大阪旧4区から衆議院初当選。2012年11月まで衆議院議員を7期務める。この間、日本共産党中央委員、同党原発・エネルギー問題委員長を務める。東日本大震災が発生する以前から、災害などによる原発の電源喪失時の危険性を国会で再度にわたって指摘、質問をしており、2011年に発生した福島第一原子力発電所事故で現実のものとなったことで各種のメディアで注目された。国会議員引退後、現在、NER(呼称=ネル。原発・エネルギー・地域経済研究会=Nuclearpowerplant・Energy・Regionaleconomyの頭文字。通称=吉井研究会)を立ち上げている。著書に、『原発抜き・地域再生の温暖化対策へ』(新日本出版2010年)、『国会の警告無視で福島原発事故』(東洋書店2016年)など。