【講演レポート】
また、自身の体験として、レンジャー部隊が、3カ月に及ぶ訓練中、「レンジャー!」という言葉しか発してはいけないなど、基本的人権は二の次の過酷を極める訓練によって精鋭部隊として育成される一方、ほとんどの自衛隊員はレンジャー部隊のような厳しい訓練を受けていない、平時想定の部隊であることを説明した。加えて、自衛隊員が海外派遣中に死亡した際の扱いについても言及。とりわけ、自衛隊員が全員加入している防衛省職員団体生命保険において、「戦死」あるいは「紛争死」の場合には免責、すなわち保険金が支払われない扱いとなっていることを挙げ、「自衛隊員は虫けら(扱い)か」と厳しく批判。さらに、「こういう最高指揮官のもとで、極めて違法性の高い法律のもとで、戦闘行動に駆り出される自衛隊員の気持ちに思いを馳せてほしい」と述べた。
なお、講演に先立ち、SEALDs KANSAIの大野至氏が登壇し、「安保法制の廃止や現実味を帯びてきた憲法改正を阻止するために、参議院選挙を盛り上げていくことが大切」と語った。その上で、「(多くの一般の有権者にとっては)ほかに選ぶべき候補者がいないという状況。現状に閉塞感もある。そういった状況の中では、立憲主義を守る、戦争をさせない、人権を守るといった、当たり前のことを守れる候補を市民の側がつくって可視化していくことが必要」と訴えた。また、講演終了後には、井筒氏と大野氏との対談も行われた。
■イラクには20人分の棺を持参
もともと自衛隊は、専守防衛に限定した任務を遂行する組織であった。しかし、イラク戦争の際には、陸上自衛隊はイラクのサマワにおいてPKO活動として任務を遂行したが、その際には迫撃砲が宿営地内に着弾するなど、自衛隊を狙った攻撃が複数回起きた。そのような状況において、防衛庁(現防衛省)は、イラクに20人分の棺を持参していたことや、殉職者の国葬を執り行う場合に備え、武道館の空き状況を押さえていたことが、現場の士気にかかわるとしてトップシークレット扱いで進められていたと井筒氏は説明した。
■「そんなわけないだろう。戦場だぞ!」
昨年9月の安保法制の成立によって、これまでの専守防衛路線が撤廃されたことについても、井筒氏は詳しく紹介した。この中で井筒氏は、自衛隊法第3条の「自衛隊の任務」
について、これまでは「直接侵略及び間接侵略に対し我が国を防衛することを主たる任務」と規定していたものが、強行採決された安保法制によって「我が国を防衛することを主たる任務」と改定され、「直接侵略及び間接侵略に対し」が省かれたことにより、専守防衛ではなくなった点を厳しく批判。加えて、自衛隊が海外任務に就いた際に、「危なくなったら逃げればいい」「自衛隊のリスクはこれまでと全く変わりない」という見解を示している安倍政権について、「そんなわけないだろう。戦場だぞ!」と一蹴した。
■「服務の宣誓」は契約の取り直しが必要
井筒氏は、自衛隊法施行規則に定められている「自衛隊員の服務の宣誓」を紹介した。その宣誓にある、「日本国憲法及び法令を遵守」「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託にこたえる」という文言について、「これは専守防衛を前提としたものである」とし、「強行採決によって、世界中のどこにでも出かけていって戦闘行動をするという内容に変わったのだから、(改定した内容を反映した服務宣誓の)取り直しが必要だ」と強調した。加えて、「身をもって責務の完遂に務めるというのは、戦争によって『死ぬ』ことである」とし、「これまでは海外に行って戦闘行為をする契約はしていない」「日本を守るためでもなく、国益と言えるのかも疑問な戦闘で死ななければならないという契約変更なのだから、契約の取り直しが必要だ」と付言した。
■「非戦闘地域」は国民を欺く詭弁
PKOに関連して、たびたび「非戦闘地域だから安全」との主張が政権側からなされるが、この「非戦闘地域」という定義について井筒氏は、「国連PKOだろうと、イラクだろうとアフガンだろうと、行く現場は全部戦場。停戦合意をしたから戦場じゃないというのは、政治家が国民を欺くための詭弁だ」と鋭く指摘。また、テロの広がりなど、戦争の形態が大きく変化している点にも言及し、「兵士か市民かの区別がつきにくい。間違って市民を殺してしまったら殺人犯として裁かれる」とし、そういった様々な問題を解決せぬまま自衛隊の海外派遣がおこなわれてきた実態を厳しく批判した。
■多岐にわたる問題点を指摘
井筒氏は、このほかにも、安倍政権が武器輸出を解禁した問題や、国際紛争や地域緊張が続く中東や東アジアを「成長市場」と公言する武器メーカーの「死の商人」ぶりを批判。また、未成年者への自衛官募集活動に関して、市区町村が住民基本台帳の閲覧を認めるといった対応や、自衛官募集の広告に女優やアイドルグループを起用している点、さらには、有事の際には国民保護の名のもとに、国民や企業を自衛隊に協力させる「総動員体制」が敷かれる可能性についても言及した。とりわけ、民間人と軍人がともに行動する場合、彼らを攻撃対象とすることが、戦争時において国際法上は合法とされている点を挙げ、軍事施設と居住地が離れている米国とは異なり、日本では居住地のすぐそばに自衛隊の基地があることから、国民が攻撃対象とされかねない点についても憂慮の念を示した。
■日本の長所を伸ばす外交戦略を
井筒氏は、日本国憲法の第9条について、「憲法9条があるから戦場でも戦闘に巻き込まれない、というわけではない」としつつも、「戦争放棄を謳っているからこそ、あらゆる戦争や紛争を仲裁できる立場にある」と評価。また、日本人の特性として、宗教色が諸外国に比べて薄い点を挙げ、宗教が関わる民族対立の調停をする、あるいは世界で唯一の被爆国として、核軍縮のイニシアチブを発揮できる点など、日本の持つ長所を伸ばす外交戦略を最優先で行うべきであると説いた。
■「野党共闘」を粘り強く
改憲の危機が目前となっている7月の参議院選挙について、井筒氏は「政党も(他党の政策の)あそこがいいとかダメとか怒ってばかりではなく、連合がある(から難しい)かもしれないけど民主党も統一を一緒にやろうよ、とか、共産党もあんまり共産党共産党と言わず、もっとハードル下げてくれないかな、とか、とにかく安倍政権を律することができない自・公に、近畿の議席は1つも渡さないという思いを、大局からやりましょうという思いを、粘り強く訴えていくべき」と語った。【了】
講師:井筒高雄氏(元陸自レンジャー隊員)
ゲスト:大野至氏(SEALDs KANSAI)
日時:2016年2月11日14:00~16:30
会場:こうべまちづくり会館2階ホール
協賛:安保法制に反対するママと有志の会@兵庫
主催:市民社会フォーラム
(市民社会フォーラム第172回学習会)