【講演録】「市民による市民のための選挙の可能性 平和と民主主義、立憲主義を取り戻すために」

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市民社会フォーラムは2016年1月16日、「市民による市民のための選挙の可能性」と題するシンポジウムを神戸市にて開催した。

シンポジウムの趣旨

このシンポジウムは、来夏の参議院選挙を控え、安保法制廃止を実現し立憲主義を取り戻するために、市民と政党が共同して選挙を盛り上げようという動きが活発になっている中、平和と民主主義、立憲主義を市民の手に取り戻すためにどういう取り組みが大事なのか、各分野で活躍されている市民活動家をと参加者との交流を図るために開催された。

市民団体や個人活動者がパネリストとして登壇し、「平和と民主主義、立憲主義を取り戻すために」というテーマに則し、これまでの取り組みや今後の方針などについて発表した。また、次期参院選の兵庫県選挙区において、民主党および日本共産党から立候補を予定している2名が登壇。各政党の考えを語った。

金田氏&水岡氏パネリストによる発表ののちには、このシンポジウムに参加した約60名の聴講者を交えての質疑応答が行われた。特に、野党共闘に関する両党の取り組みについて聴講者から複数の質問や意見表明がなされ、関心と期待の高さをうかがわせた。

参加した市民団体や個人活動者、そして両党の立候補予定者は、今回のシンポジウムを機に、互いに手を携え、地元選挙区における野党共闘のあり方について、今後も検討を進めていく方向性を確認した。

脇田燦志朗氏(SEALDs KANSAI=自由と民主主義を守るための学生緊急行動・関西)

SEALDsの各メンバーは、支持政党や護憲・改憲など、それぞれの考え方を持っている。しかし、自由と民主主義、立憲主義を守るという認識は一致している。私たちは、(昨年夏の政府与党の)やり方はおかしいと思った胸の内を可視化させるべく、デモや街宣を企画し実行した。但し、安全保障関連法制に反対するためだけに声を上げていたのではない。自由と民主主義を否定するようなことに対しては今後も声を上げていく。

一方、昨年11月の大阪W選挙(大阪府知事+大阪市長同日選挙)では、SEALDsとして初めて選挙に関連する取り組みをおこなった。その際には、どういった活動をどの範囲までしていいのか、どういうことをすると公職選挙法違反になるのかといったことなど、勉強不足の点もあってスムーズに活動できなかったことを反省してい脇田氏る。また、大阪W選挙は大阪維新の会と、安全保障法制を強行した自民党との対決という構図であり、この状況においてどのようなアプローチをおこなうべきかという点に苦慮した。結果として、特定の政党を推すのではなく、大阪でのこれまでの政治の中身について見直しを求めるアピールをおこなった。加えて、現場の生の声を拾い、SNSで発信する「リアル」というプロジェクトにも 取り組み、有権者に判断材料を提供した。

来たる参院選に向けては、大学を回って学生に呼びかけるなどの投票率を上げるための取り組みと、野党共闘のための話し合いの場を創っていく。野党は、安全法制を止めるという一点でひとつになれるはずだと私たちは考えている。

宮崎勝歓氏(安保関連法に反対するママと有志の会@兵庫)

安保関連法制に反対するママと有志の会は、京都の人がたったひとりでフェイスブック上で立ち上げたのがきっかけだが、「誰の子どもも殺させない」の合言葉に共感した人々がそれぞれの地元で続々と会を立ち上げ、現在では全国に70以上の会がある。「誰の子どもも殺させない」という合言葉は、日本に留まらず世界中に広がる普遍性を備えたメッセージだと考えている。一方、安保関連法制に賛成している人がどういう思考回路なのかを理解し対話するために、あえて「戦争法案」という言葉は使わなかった。

私たちは安保関連法制に関して、地方議員や地方議会への陳情など、選挙の投票以外の手段で初めて政治に関与することとなった。市議会の傍聴や議員へ向けての口頭陳述など初めてずくしの展開となった。また「国会議員に会いに行こうツアー」も実施した。宮崎氏

今後の会の取り組みについては、目下のところ野党共闘の実現と改憲阻止を目指して日々意見交換実践している。但し、兵庫のママの会としては、大きなデモや凱旋などはおこなっておらず、サイレントマジョリティであるママたちの目覚めに期待して、地道に活動している。直近では、勝手連である「皆で選挙をやろう会・兵庫」(みなせん兵庫)の立ち上げに向けて準備を進めており、兵庫選挙区で市民が共同して支援する候補を2議席獲得したいと考えている。そのために、政党間のコーディネート役となり、市民団体間のネットワークを強化するプラットフォームとしての役割も果たしていきたい。

八木和也氏(あすわか・ひょうご=明日の自由を守る若手弁護士の会・兵庫)

弁護士会は弁護士が必ず加入する団体であるが、右から左まで非常に幅広い政治的な考えを持った人々の集まりである。集団的自衛権の問題についても、賛成の立場の弁護士もかなりの割合でいる。そういう中においても、安保法案に反対する立場を取ってきたのは、法案が滅茶苦茶だからだ。私たちは、憲法を頂点とする法の下の社会で生活している。法に照らしておかしいと思ったことは正していくのが弁護士の使命である。憲法を内閣総理大臣がみずから破壊する行為は、弁護士という職業上の倫理に照らして断じて許すことができないものであり、憲法違反であるという点に疑問の余地がないというのが、私たちの一致した見解である。
八木氏
あすわかは、自民党が野党時代に作った改憲草案の内容に危機感を持った若手弁護士が2013年に立ち上げた組織である。わが国において、憲法や立憲主義のことを義務教育でほとんど教えていないのは、権力が国民を統治しやすい対象とし、主権者として扱ってこなかった表れだと考えている。あすわか兵庫では、憲法を多くの人に知ってもらうために「知憲」という取り組みをおこなっており、「憲法カフェ」を開くなどの活動に取り組んでいる。憲法カフェは、少人数でお菓子を食べながら、ざっくばらんな雰囲気で憲法について語り合える場を設定している。

今後の取り組みについては、ママの会やSEALDs、SADLなどの市民団体が目覚ましい活躍をする中において、公職選挙法や公安条例など様々な法令上の問題をクリアする必要があるので、それらのサポートをしていきたいと考えている。また、野党共闘については、安保法制というワンテーマが出発点にはなるものの、このテーマに絞りきることで選挙に勝てるのかというと、若干疑問に感じている。やはり市民は日々の生活に追われており、安保法制の問題だけではなく、景気や経済、社会保障の分野に関心を持っている。選挙で勝つためには、野党共闘の中で、安保法制以外の何か共通のイシューが必要ではないかと感じている。

fusae氏(SADL=民主主義と生活を守る有志)

私たちは、3.11(東日本大震災および原発事故)をきっかけに、TwitNoNukes大阪を立ち上げ、脱原発デモを実施するようになった。また、昨年春には大阪都構想の住民投票に向けたアクションにも取り組んだ。そして、同じく昨年夏の安保法制への反対行動や、秋の大阪W選挙に対する取り組みとしてデモや街宣などをおこなった。中でも、安保法制反対行動に関しては、法制反対の要請文を集めて参議院会館に直接届けたりもした。
fusae氏
また、街宣行動においても、要点をまとめたフライヤーやリーフレットを作成して配布したが、政治に無関心な人や若者にも受け取ってもらえるように努力した。単に反対だというばかりでは、話を聞いてもらえない人が多い。そのため、「私はこう思いますが、あなたはどう思いますか?」といった話し方をし、生活のどんな点に不満だから大阪都構想に賛成なのかや、安保法制がなぜ必要と思っているのかといった会話につなげることができた。さらに、現場で聞いた生の声をSNSを通じて発信することで、各地(の市民運動)に波及効果があったのではという手応えを感じている。

とりわけ、昨年秋の大阪W選挙の際には、自民党を応援するという稀有な体験をした。直前には与党が進めた安保法制に「やめろ!」と叫んでいたのに、W選挙のときは「頑張りましょう!」と言ったり。W選で自民党を推した理由は、維新が与党である大阪において、野党である自民党の候補者にもいろいろな考え方の人がいて、市民からの要求をぶつければ、考えるという姿勢を見せてくれる人が候補者だったという点が大きい。最初は戸惑ったが、胸を張って応援することができたと考えている。

これらの経験を参院選にどのように活かすかについては、大阪都構想住民投票で否決派が勝ったのに、W選挙では反維新が負けた理由が参考になると考えている。負けた理由として投票率が下がったことが大きいと言える。特に、大阪都構想住民投票のときの運動の盛り上がりと比べ、W選挙のときは盛り上がりに欠けたことで、投票率の低下を招いたと考えられる。このことから、参院選に向けて投票率を上げるための動きを今からやっていかないといけない。また、争点を上から押しつけられるのではなく、市民の側から要求したことが争点になるような図式をつくらないといけないと思っている。

泥憲和氏(元自衛官・平和活動家)

なぜリベラルは勝てないのか、について考えてみたい。まず、有権者をバカにするように聞こえるかもしれないが、有権者の選択は印象で決まる。細かい政策のことを分かっている人はほとんどいない。安保法制も隅から隅まで分かって反対している人は少ないと思う。テレビによく出てくる政治家をまるで身内のように錯覚してしまうし、誰しもが身内に甘くなる。「私らに悪いようにはしないだろう」と感じて投票してしまう。恐ろしい話だがそれが現実である。

泥氏日本の決定プロセスはデモクラシーではないのが現状で、そういうのは有権者の感覚にもなじまない。「談合」で決まる。議会でも政党でも、大会でも自治会の総会でも株主総会でも、みんなセレモニー。決めるべきことは最初から決まっている。もし平場で議論したら四分五裂する。それが分かっているから、みんな議論が嫌いである。かと言って、有権者は言いなりかというとそうではない。みんな欲得ずくで、権利意識は高い。自分たちへの利益実現やお手盛り、言い換えるならば、日本社会は親分・子分の疑似家族的システムで成り立っている。そして、保守は政治システムではなく、生き方とか文化に類するものだと私は思う。

リベラルの弱点は、自分たちが筋の通った運動をしていると思っているが、誰もそれを求めていない。リベラルは世間から浮いている。では、どうすればリベラルは勝てるようになるのか。勝つには、まず自分から印象をつくっていかねばならない。野党共闘も野合だという印象を(ライバルに)つくられてしまったら終わり。我々は、明るい変化が待っている、勝てる、という実感を、野党共闘に印象づけてしまう、そういった選挙戦術が必要だと考えている。特に、若い人がどんどん出てきてくれているのは嬉しい。「若さ」をメディアは放っておかない。どんどんメディアに露出し、「これが世間の流れだ」と印象づけられれば勝ちである。

あと、保守の人の気分や感情を変え、リベラルに変えていくのはとても難しい。保守の人たちは急激な変化は危ういという感情を持っている。安保法制では護憲派はもとより改憲派でも一部は反対に回っているし、自衛隊幹部も反対に回っている。そこは安倍首相の危うさに危機感を持っているからで、その保守の心理を刺激していくことが大切だと考えている。そして、安保法制のことだけ言っていてもダメで、アベノミクスのデタラメさなど、経済のことも言っていかないと勝てない。但し、批判ばかり言っていてはダメ。たとえば、いい記事を放送したり記事にしたりしたメディアを積極的に褒めるといったことも必要だと思う。

水岡俊一氏(民主党・参議院議員)

私は、国会の様子を皆様にお伝えすることが大切だと考えている。日本に民主主義がなくなったとまでは思わないが、同時に独裁政治もはびこっている。私は民主主義と独裁は反対にあるものだと昔は思っていたが、今の国会の渦の中にいると、民主主義はあるけれども独裁だなと感じている。今の選挙の仕組みが、全ての人々の思いを実現するということになっていないのが大きな問題だと考えている。
水岡氏
今年の参院選については、さらに独裁の色が強くなる可能性が潜んでいると懸念している。兵庫は2名区から3名区になる。定員としては4から6に変わるわけだが、3年ごとに半数改選なので、今年の選挙は低定数が3になる。定数2が3になることについては評価が分かれるところであるが、阪神間における調査では、おおさか維新の会の人気がトップで、自民や公明が上がってきており、私や(共産の)金田さんは4番手5番手という結果が出てきている。そういったことが、もしこのまま進んでしまうのであれば、自民・おおさか維新・公明が議席を独占することになる。民主・共産が議席を獲得できないと、憲法改正にまっしぐらという状況になると考えている。それを防ぐには、定数3のところに最低1人でも護憲の議員を送りこまないといけない。

与党は、次の選挙で票をもらうために、高齢者に3万円、全国の支給総額が3600億円と聞いている。本来ならば、こういうものすごい額を、持続可能性のある社会保障の仕組みに組み込んでいくといったことが大事である。しかし、このような主張を私たちが言ったとすると、3万円を配る自民党に人気が出て、これに反対する野党のほうが人気が悪くなってしまう。そういったことも、野党の人気のなさの原因のひとつだと考えている。しかし、政治は人気取りではなく、本当の日本の姿、今の日本に潜む本当の問題点や、国民は何が必要なのか、何を我慢しなければいけないのか、何を与えるべきなのかといったことをきちんと捉えているということを、国民に印象づけていく必要があると考えている。

金田峰生氏(日本共産党・国会議員団兵庫事務所長)

スキーバス事故で多くの方々が犠牲となった。運転手が健康診断を受けさせてもらっていなかったといった報道がなされている。実は私自身も、学生のときに多くの学友をスキーバス事故で亡くしているが、その原因は運転手の過労だった。利益追求のあまり、このような事故が増えており、安全や労働環境が二の次になっているのではないか。あえて言わせていただくと、このことは、安保関連法を強行し、自衛隊には駆けつけ警護を任務として追加し、外国軍を守るために血を流せと平気で命令しようとする政権、また、武器輸出によって死の商人となろうとしている安倍自公政権の姿勢と、決して無縁ではないと私は感じている。金田氏

憲法を守らない政権は、国民の権利も尊厳も、そして命も奪いかねない危険性を持っている。私たちの闘いは、こうしたとんでもない政権を交代させる闘いだと思う。明文改憲をさせないのは当然のことで、安保関連法に反対してきた方々が市民連合を結成したが、その中で掲げているのが、「安保関連法の廃止」「立憲主義回復」「ひとりひとりの個人の尊厳を擁護する政治」というスローガンである。これらは、多くの国民の願いであり、私たちの公約と言っても過言ではない。この公約を実現するために選挙に勝たねばならない。

私たちに寄せられる期待は、マスメディアが発表する数字には表れない力強いものだと実感をしている。「空気は読むものではなく変えるもの」と考え、与野党の力関係を変えていくべく、保守の方々の元へも出かけていって話をさせていただいている。「共産党アレルギー」という言葉もあるが、話をさせていただくと一致点も多い。この動きをもっとスピードアップしていき、選挙に間に合わせたい。

質問:3人枠に5人が立つ中において、民主と共産が4~5番手ということだが、両党で話し合って1人に決める覚悟は?

金田氏:改憲勢力に3分の2を取らせないためには、兵庫の定数3の中で、2議席を戦争法廃止(を唱える政党)の議席にしないといけない。(民主の)水岡議員にも当選していただかないといけないし、私も当選させていただかなければならない、そういうレベルの闘いだと考えている。少なくとも1議席が取れたら御の字だというような、いわば戦線縮小のような闘い方では、勝てるものも勝てなくなるのではと私は考えている。但し、情勢によって、ぎりぎりの判断をしなければならない状況となった場合には、党利党略ではなく、国民の皆様の思いに応えるためにはどうすればいいのか、という視点で判断することになろうかと考えている。実は、水岡議員とこんなに長い時間一緒にいたのは、今日が初めてなので…(会場爆笑)、こういう機会を与えていただいて本当に感謝している。

水岡氏:共産党が大英断をされて候補者を絞っていく取り組みがされているのは、主に、〇か×かがはっきりする1人区。ある意味弱気な発言(最低1人でも護憲の当選者を送り込まなければならないという発言)をしたが、情勢としてそのような状況(2名とも不利な情勢)であるということをご理解いただきたいし、もちろん改憲勢力を過半数割れにもっていきたいと思っている。金田さんが、護憲派2人が議席を取りにいくという運動をされたいというのは、改憲勢力を抑えるためには、まさにその通りだと思う。【了】

シンポジウム全景

【開催概要】

市民社会フォーラム第170回学習会
■パネリスト(発言順)
脇田燦志朗氏(SEALDs KANSAI)
宮崎勝歓氏(安保関連法に反対するママと有志の会@兵庫)
八木和也氏(あすわか・ひょうご)
fusae氏(SADL)
泥憲和氏(元自衛官)
水岡俊一氏(民主党・参議院議員)
金田峰生氏(日本共産党・国会議員団兵庫事務所長)
■開催日
2016年1月16日 13:30~16:30
■場所
こうべまちづくり会館 2Fホール
■主催
市民社会フォーラム