【講演録】ゴジラ ウルトラマン 怪獣平和学入門 ~怪獣映画にみる戦争~(講師:永田喜嗣氏)

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【講演レポート】
「ゴジラ ウルトラマン 怪獣平和学入門 ~怪獣映画にみる戦争~」(市民社会フォーラム第171回学習会@神戸)


市民社会フォーラムは2016年1月24日、「ゴジラ ウルトラマン 怪獣平和学入門 ~怪獣映画にみる戦争~」と題する学習会を神戸市内で開催した。この学習会には、ウルトラマンなどの怪獣映画に詳しい永田喜嗣氏を講師として招いた。永田氏は長年に渡り国際交流事業に携わったのち、退職後に大阪府立大学大学院に入り、怪獣映画のみならずジョン・ラーベや抗日戦争映画の研究に携わるなど、異色の経歴を持つ人物である。

■怪獣映画は憲法遵守だった
スクリーンショット 2016-02-25 18.12.36永田氏は、ゴジラやウルトラマンといった、日本が世界に誇る怪獣映画について、その時代における自衛隊や軍隊への考え方が色濃く反映されていることを詳しく解説した。この中で永田氏は、「戦後70年、日本は幸いにして一度も戦争を体験していないが、スクリーンの世界では、怪獣映画という形で何度も自衛隊が出動して戦争が行われてきた」と解説。ゴジラを引き合いに、「この30年間(※ゴジラ映画が初登場した1954年から、昭和最後のゴジラ映画となった1984年の作品まで)は、日本国憲法下にある自衛隊がきちんと描かれてきた。一度も憲法を逸脱したことがない」と語り、怪獣映画の中においても、自衛隊が日本国憲法の平和条項をきちんと守って行動している様子が的確に描かれていたことを解説した。

さらに、「ゴジラが日本に攻めてきたときは、自衛隊は個別的自衛権で戦った。ゴジラの映画は30年間の間で、自衛隊は海外で一度もゴジラや怪獣と戦うことはなかった。映画をつくった人たちは、そこを逸脱しないようにしていた。そこは評価されるべきだ」と続けた。
■自衛隊が人間に初めて発砲
ところが、この憲法遵守の姿勢に転機が訪れる。1989年に登場した「ゴジラvsビオランテ」について、「バイオテクノロジーを批判した映画。ファンの間でも『面白かった』と評価が高い」としつつも、「戦争という視点から見ると問題が多々ある」と評した。続けて、この映画のオープニングシーンにおいて、新宿を襲ったゴジラの組織細胞(ゴジラ細胞)を自衛隊が回収する際に、そこに紛れ込んだバイオテクノロジー企業のエージェントであるアメリカ人と自衛隊との間で起こった銃撃戦のシーンを紹介。「怪獣映画における自衛隊のこれまでの武力行使の相手は、宇宙人や怪獣だった。自衛隊が人間に発砲したのは初めて」と解説した。
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■核を肯定するシーンに憂慮の念
続いて、アメリカ人が自衛隊員を殺し、さらに、そのアメリカ人を殺すのがアラブ人として描かれている点などにも言及。「この映画には、良いアメリカ人やアラブ人が出てこない。外国人が徹底的に悪く描かれており、観ている人は、アメリカ人やアラブ人に対する悪いイメージを持ってしまう」と語った。加えて、「ゴジラ細胞」を管理している財団の総帥が、「原爆とゴジラに酷い目に遭わされた日本人が、ゴジラ細胞から核を超える兵器をつくっても決して悪いとは思わない」と述べている点を問題視。「これまでの怪獣映画は、反核を訴える映画だった。日本が核以上のものを持って、報復権があるんだというようなことを平気で言わせてしまっているのは問題だったのではないかと思う」と憂慮の念を示した。■怪獣映画の右傾化に警鐘
永田氏は、ゴジラの続編作品において、仮想の名称の国とはいえ、日本が、宇宙や怪獣ではなく、地球上の他国を敵対視するような内容が描かれていることや、日本の大企業が原子力潜水艦を保有し核を持っているシーンが描かれていることなどとあわせ、平成に入ってからの「怪獣映画の右傾化」についても懸念を示した。
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■怪獣映画は世界情勢を投影
ウルトラマンに関しては、「加害と被害や、戦争責任の問題、そして和解と共生について取り扱っている」と評した。自分の住んでいた星に住めなくなったために地球を侵略する宇宙人を「難民」と形容する一方で、核や公害などの諸問題に見舞われている地球を、宇宙人たちは自分たちの技術力で良くしてやろうといった具合に、まるで「救世主」のように考えているとした上で、「このような態度は地球における国際情勢にも当てはまるのではないか」と評し、怪獣映画が描くストーリーが現実の世界情勢を投影していることを語った。このほかにも永田氏は、怪獣映画研究者としての豊富な知見を披露するなど、怪獣映画を通じて平和について考える、示唆に富んだ講演内容となった。【了】
【概要】
講師:永田喜嗣氏(大阪府立大学大学院・ジョンラーベ研究家)
日時:2016年1月24日(日)14:00~17:00
会場:神戸元町館「黒の小部屋」
主催:市民社会フォーラム (第171回学習会)