フィリピン・ミンダナオ島で、現地NGO「ミンダナオ子ども図書館」(MCL)を運営している松居友さんによる講演です。松居さんは、フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で、およそ40年に渡るミンダナオ紛争が続いたことにより、10万人もの尊い命が犠牲になり、120万人もの避難民を生み出してきた実情を、言葉を噛みしめながら語ります。とくに、自らも間近で内戦に直面した経験から、「戦争は現地で勃発するというよりも、外から意図的に起こされるのだというのが見えてきた」と語ります。そういった内戦によって最も被害を被るのは民間人、とりわけ貧しい家庭に育つ子どもたちです。松居さんは、避難を強いられている子どもたちへの絵本の提供や読み聞かせを通じて、貧しくとも明るく前を向いて生きることの大切さを伝えてきました。
また、子どもたちが学校に通えるようにするスカラーシップ(奨学金)制度や保育所の設置、怪我や病気の診療をおこなう医療支援、ゴムの木などの植樹を通じて、避難民が自らの手で生活に必要なお金を手にすることができる環境づくりをお膳立てするなど、さまざまな活動をおこなってきた松居さん。内戦によって厳しい状況に置かれる中でも、人々が助け合って明るく生きる様子を紹介し、戦争の愚かさ、そして対話を通じて平和を守り抜くことの大切さを伝えています。
後半は、元自衛官で平和活動家として知られる泥憲和さんがゲストとして参加。泥さんは、「人間は、間違った情報で上から敵愾心(てきがいしん)を植え付けられ、本気で相手を憎しみ殺し合う馬鹿な動物だ」と自虐的に語ります。一方で、一度和解が成立し信頼関係を結べば、どうすれば相手に喜んでもらえるかを考えるし、相手が喜んでくれれば自分も嬉しいと思える動物でもある」とし、冷静かつ正しい情報の選択と対話による信頼醸成の大切さを説きます。
加えて、フィリピンから撤退したはずの米軍が、アメリカ同時多発テロに伴う対テロ報復活動である「不朽の自由作戦」の対象地としてミンダナオ島に介入していたことが、日本ではほとんど報じられていないことに言及。現在、ミンダナオ島で不安定ながらもかろうじて成立している和平合意の枠組みを、「アメリカは崩したがっている」と懸念を示します。
さらに、フィリピンやベトナム、中国などとの間で続いている南シナ海領有権問題へのアメリカの介入、さらには集団的自衛権の行使を認める解釈改憲をおこなった安倍政権が、南スーダンのみならずミンダナオにも介入しかねない状況であると憂慮の念を語ります。加えて、「参院選で自公政権が3分の2を超える議席数を確保して圧勝すれば、松居さんがこれまでおこなってきた活動も瓦解してしまう可能性がある」とし、参院選で自公政権が勝利することへの懸念を示しています。
このほかにも、松居さん、泥さんともに、戦争と平和についてのさまざまな発言をおこなっています。ぜひ動画をご覧ください。(了)
◎概要
松居友さん講演会
手をつなごうよ 日本にいちばん近いイスラム紛争地域での活動
会場:シアターセブン BOXⅠ(大阪・十三)
◎講師・ゲストプロフィール
・松居友(まつい とも)さん
ミンダナオ子ども図書館館長。1953年、東京生まれ。1979年上智大学大学院独文修士課程修了。ザルツブルク大学留学。福武書店(現ベネッセ)の児童図書編集長を経て北海道へ移住。1998年フィリピン・ミンダナオ島に渡り、2002年「ミンダナオ子ども図書館(MCL)」設立、翌年、現地NGO法人とする。フィリピン・ミンダナオのイスラム戦闘地域近くで、100人近くの子どもたちと共に暮らす。2012年、現地マノボ族の洗礼を受け酋長となる。(洗礼名アオコイ・マオンガゴンは、「心から人を助ける我らの友」の意味)。父は、福音館書店・初代編集長の松居直氏。著書は『わたしの絵本体験』(教文館)、『ふたりだけのキャンプ』(童心社)、『おひさまのくにへ』(BL出版)、『サンパギータのくびかざり』(今人舎)ほか多数。
●サイト検索:「ミンダナオ子ども図書館だより」
http://www.edit.ne.jp/~mindanao/mindanews.htm
・泥憲和(どろ のりかず)さん
1954年姫路市生まれ。1969年陸上自衛隊入隊。少年工科学校(現在の陸上自衛隊高等工科学校)を経てホーク地対空ミサイル部隊に所属。1978年工場経営。1992年神戸及び姫路の弁護士事務所に勤務。現在は集団的自衛権、改憲問題、人種差別など様々な社会問題に体を張って取り組んでいる。著書に『安倍首相から「日本」を取り戻せ? 護憲派・泥の軍事・政治戦略』。
◎関連図書