「核兵器のない世界へ/何をどのように伝えていくか」と題し、「ヒバクシャ国際署名」キャンペーンリーダーの林田光弘さんをお招きしてご講演いただきました。
高校生平和大使として、またSALDsのメンバーとして活動し、色々な工夫を重ねてきた経験が今の活動にも反映されていて、私たちが直面する「誰に対して何をどう伝えていけばいいのか」という課題について色々な示唆をいただき、実りある講演会になったと思います。
まず冒頭に、米国が核戦略を大幅に見直したこと(NPR)と、それに追随する日本の異様な姿勢を指摘、「本来なら安保法制の時と同じぐらいの反発があってよいはずだが、そうなっていない」との指摘から始まりました。
平和教育に熱心な広島・長崎ですが、実際にその教育を受けた若者の声を聞くと、いろいろと課題も見えているようです。「精神的なトラウマになる」「価値観を押しつけられているように感じる」「広島/長崎出身というだけで責任を負わされている」「戦争との繋がりが見えない」「道徳教科的な『よい子』の枠に当てはめられ、自分の考えが持てない」といった意見が紹介されました。
小学1年生はすでに2010年生まれであり、祖父母ですら戦後生まれ。身内に戦争体験者がいない子どもが多くなってきている現状では、以前なら当たり前に共有されていた「戦争を語る言葉」が存在していません。その中で何を伝えるか、きちんと戦略を練る必要があるというのが、今回の中心的テーマとなりました。
「運動に必要な三角形」として紹介された図は、頂点が「専門家・プロ」、その下に「アクティブな市民」がいて、さらに「関心層」がいます。枠外に「一般市民・潜在的関心層」があります。
一例として、SALDsの場合、国会前では、そこにいる人はすでに関心があってアクティブな層なので、盛り上がるような専門家を呼んでスピーチしてもらうことでモチベーションを上げる。渋谷などの街頭なら有名なアーティストなどに喋ってもらい、テンポの速いコールで話題づくりをする。とにかく「誰にどんなアクションを取らせたいのか」を突き詰めて「どんなアプローチを行うか」を考えるというのは、マーケティング戦略そのものですね。それに対して、日本のリベラル市民運動は「ターゲットを絞らずに全部やろうとしてしまう」がゆえにうまくいかない、という苦言もありました。
さて、ここで話は「社会問題の解決に立ちはだかる3つの壁」へ。「3つの壁」とは、「興味が持てない=関心の壁」「情報がない=情報の壁(情報過多すぎて正しい情報にたどり着けない事例も含む」「関わり方がわからない(現実の壁)」です。
「河野外相がNPR(米国の新核戦略)を評価することの何が問題なのか」という疑問(関心)に対して、「北朝鮮の脅威」という説明づけがなされ、そのまま「無関心」の位置まで戻ってしまうのが多くの人の現状。ここに「そうではない」という正しい情報を提供していく必要がある。現代における「核兵器」と、「広島・長崎で起きたこと」が乖離している現状を結んでいく必要があるという指摘です。
ここから、核兵器についての基本的知識をおさらいしていきます。まず「核抑止力」について。お互いが喉元に武器を突き付けて「動いたら殺す」と脅しあっている状態。ある意味では相手の理性のみに依拠しているとも言えるが、この状態を「平和」と言えるのかどうか。
そもそも「大量破壊兵器」とは何か、「通常兵器とはどう違うのか」を理解するところから始めます。根拠は戦時国際法(国際人道法)です。たとえ戦争であっても「無用な苦痛を与えない」「民間人を殺傷しない」といったルールが決められていますが、使用するだけでそのルールを破る兵器が大量破壊兵器です。すでに生物兵器・化学兵器・対人地雷・クラスター爆弾については禁止・規制する国際合意が進んでおり、核兵器だけ対応が遅れています。
核兵器の特徴としてハッとさせられたのが「救助に行けない」という指摘です。被爆地に救助に入れば、救助者自身も被爆者になります。そのことが、2010年4月に赤十字国際委が出した「核兵器の非人道性」についての指摘にも繋がっているようです。
1970年に締結されたNPT条約。5大国のみに核保有を求める不平等条約ですが、元々は期限の25年以内に保有国が核軍縮を進める前提で合意に至ったのに、その1995年には中東の不安定さを理由に無期限延長、保有国の義務である核軍縮は進んでいません。そこを補完するものとして核禁止条約が作られたわけですね。
なお、NPT加盟国には核技術の「平和利用」が認められていますが、非加盟国への「技術移転」は認めていません。原発そのものの是非を脇におくとしても、日本からインドへの原発輸出が「NPT条約違反」であることには疑問の余地がありません。
さて、日本の姿勢(河野外相の姿勢)に話が戻りますが、NPRは核兵器使用のハードルを下げ、使用の可能性を高める方針となっており、NPT条約による「核軍縮の義務」に反しています。
これに同調すれば、日本は「米トランプ政権と同様、国際的議論の蓄積を踏まえた合意を守れない、野蛮な国」との評価を受けることになります。それも、曲がりなりにも一応は「被爆国」としての立場を示し「核廃絶」を訴えてきた過去を投げ捨てることでもあり、核兵器の非人道性に着目して禁止条約をつくってきた世界に対して、日本は「非人道的な国家である」と自ら宣言する行為でもあります。
最後は「関わり」についての提案です。今、時間的に限界を迎えつつある重要な取り組みが「被爆体験を直接聞く」ということです。「被爆体験」というのは「あのキノコ雲の下で何が起きたか」にとどまりません。家族や友人との関わり、就職・結婚など生きていくなかでぶつかってきた様々な困難など、一人ひとりに「背景・物語」があります。だから、「一人の話を聞いたから終わり」ではないのですが、そこで大事なのが私たち市民の役割です。たとえば「被爆体験を聞く会」を開いたとして、その人だけでは伝えきれない、さまざまな背景があることなどを補足し、参加者に伝える内容をより深めることができます。
広島や長崎では色々な資料のアーカイブ化、保存作業も進められていますが、私たちが伝えていくべき最も大切なことは「データの背後にある様々な想い」であるとの林田さんの指摘に「全くそのとおりだ」と思いました。
「被爆体験を世界中に伝え、核兵器へのイメージを変えていくこと」が中心的な課題であるとの提起です。林田さん自身も「署名のキャンペーンリーダー」という役回りですが、単に数が集まることではなく、署名を通じて様々なアクションが広がること、そしてさらに出会いがあることが大事だと指摘されました。締めに仰った「核兵器廃絶を『夢物語』にせず、現実のものにする」という林田さんの言葉を私たちも精一杯受け止め、社会を変える具体的なアクションを一つひとつ実行していけたらと思います。(KENNY)
■□■市民社会フォーラム協賛企画■□■
非核の政府を求める兵庫の会 第32回総会記念講演会
核兵器のない世界へ 何をどのように伝えていくか
日 時 2018年2月10日(土)14:30~16:30
会 場 兵庫県保険医協会6階会議室
講 師 「ヒバクシャ国際署名」キャンペーンリーダー 林田 光弘さん
参加費 「非核の政府を求める兵庫の会」会員無料
会員以外参加費1000円 どなたでもご参加できます。
お問い合わせは 事務局 電話 078-393-1833 e-mail shin-ok@doc-net.or.jpまで
協賛 市民社会フォーラム
2017年には核兵器禁止条約が成立し、ICAN(核兵器廃絶キャンペーン)がノーベル平和賞を授賞するなど、「核兵器のない世界」に向けての関心が高まっています。
今こそ唯一の戦争被曝国の日本の私たちは、人道的見地から広島・長崎の被爆者の悲願でもある核兵器廃絶を実現するよう、私たちの政府と国際社会に強く訴えることがいっそう重要になっています。
そのためには核兵器廃絶の意義を多くの人々に共感をもって関心と支持を得られる世論と参加が必要です。
「ヒバクシャ国際署名」キャンペーンリーダーの林田光弘さんに、若者はじめ多くの市民に何をどのようにつたえていくべきか、お話しいただきます。
■林田 光弘(はやしだ・みつひろ)さん
長崎出身、 被爆3世。 明治学院大学大学院に在籍。
高校卒業まで長崎で「高校生一万人署名活動」に参加。
2009 年には「高校生平和大使」としてスイス・ジュネーブ 国連欧州本部を訪問。
2010 年には核兵器廃絶地球市民活動メンバーとして NPT 再検討会議に参加。
大学入学後は、原発、特定秘密保護法、安全保障関連法等の問 題に関心を持ち、仲間と「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」を立ち上げ活動する。
2015 年にはNPO法人ピースデポの ユースとして NPT 再検討会議に2度目の参加。
現在は、 ヒバクシャとともに「核兵器禁止条約」締結を求め活動している。