【講演録】冨田宏治さん講演会「核兵器禁止条約に向けて 国連での交渉会議の到達点と今後の展望」(2017/4/8@神戸)

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 米軍が、シリア政府軍による化学兵器使用を口実に、シリアを空爆しました。また、朝鮮半島においては、国連による制裁を受けても一向に核開発をやめようとしない北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に対する先制攻撃を、米トランプ政権が本格検討しているとの報道も聞こえてくる状況となっています。その一方で、核廃絶を求める世界的な気運が一段と高まり、とりわけ核兵器禁止条約の制定に向けた国連での動きが著しい進展を見せています。この動きについて、関西学院大学教授で、原水爆禁止世界大会起草委員長を務める冨田宏治さんに、詳しく説明していただきました。

講演の冒頭に冨田さんは、核兵器禁止条約が早ければ7月にも制定される可能性があることについて、「急転直下決まったことではなく、1995年から伏線は始まっている。何かあったらつぶれてしまうというものではなく、後戻りすることのできないものだ」と語りました。また、米国によるシリア攻撃に関して、「まさかトマホークを59発もぶちこむとは思ってもみなかった」と振り返りつつ、「戦争(核)のボタンはトランプ大統領ひとりで押せる。彼のような者が核をもてあそぶことのないよう、一刻も早く核を非合法化する必要がある」と強調しました。

◎早ければ7月7日に核兵器禁止条約が制定される可能性

核兵器禁止条約の国連会議は、第1会議が2017年3月27~31日、第2会議が2017年6月15~7月7日の日程で開かれています。これに関して、冨田さんは「最終日の7月7日には核兵器禁止条約ができている可能性が高い」と語り、その根拠として、「核兵器禁止条約の国連会議」のエレン・ホワイト議長(コスタリカ)が「(制定に向けた)展望が見えてきた」と語っている点などの具体例を挙げました。また、「交渉参加の115か国の間で意見の相違はほぼない」とも語りました。

◎議長をコスタリカが務める意義

核兵器禁止条約の制定に向けた準備会合が2017年2月16日に開かれました。この会合には、核保有国である中国やインドが参加する一方、米・英・仏・露・日本・NATO諸国が欠席しました。前述の通り、この条約会議の議長はコスタリカのエレン・ホワイト氏。議長をコスタリカが務めることについて、「コスタリカは戦争放棄を謳う憲法を掲げ、常備軍を持たない国」「コスタリカは2011年に発足した中南米カリブ海諸国共同体(CELAC)の一員。CELACは『核兵器全面廃絶に関する特別声明』や『核兵器廃絶のための高級レベル国際会議の呼びかけ』をおこなうなど、核廃絶への意思が明確」「118か国が参加する非同盟諸国会議がCELACとともにコスタリカをバックアップしている」といった点を挙げ、その意義を強調しました。また、核を持つ超大国(米・英・仏・露)は会議に欠席したものの、市民社会NGOの参加と発言権を認め(議決権はない)た点に着目。「市民社会NGOという『6番目の超大国』を参加させることにより、核兵器禁止への腹を固めている」と評しました。

◎被爆国の日本が水を差す

一方、この条約会議には、被爆国であるにもかかわらず日本は不参加を表明しています。しかも、不参加の表明のみならず、第1会議の冒頭に、日本政府は核兵器禁止条約への反対と交渉への不参加を表明し退席するというお粗末な対応を取り、会議に水を差しました。退席したあとの日本の席には「wish you were here(あなたにここにいてほしい)」と書かれた 折り鶴が置かれるなど、条約会議参加国を失望させました。日本政府が不参加とした理由は、「核保有国が参加しないもとで核兵器禁止条約をつくると、核保有国と非核保有国の間のの溝を広げ、分断を拡げることになる」というものです。これについて、冨田さんは、「これまで日本政府は、唯一の被爆国として、核保有国と非核保有国との間を繋ぐという建前のもと、反対も賛成もしてこなかった。しかし、ついに核兵器禁止条約に反対を表明した」とし、「日本政府の反対表明によって、かえって分断を拡げる結果となった。いったい何をやっているんだという話だ」と厳しく批判しました。

◎ガチガチの核推進論者でさえ核抑止力に懐疑的

冨田さんは、核保有国が主張する「抑止力」として核が有効なのかという点についても指摘しました。ガチガチの核推進論者だった米有力政治家4氏(キッシンジャー元国務長官/シュルツ元国務長官/ペリー元国務長官/ナン元上院軍事委員会委員長)が、テロリストや「ならず者国家」の手に核が渡ることによって、実際に核が使用されてしまう危険性を認識。「彼らの手に核が渡るぐらいなら、世界から核をなくしてしまうほうが安全保障上、より有利である」との考えのもと、核禁止に転じた事例をはじめとする、核の「グローバルキャンペーン」についても紹介。かつての核推進論者でさえ、核がもはや抑止力として機能するとは考えていないことを明らかにしました。また、このような核兵器禁止に向けた機運の高まりの流れに「安倍政権は逆行している」と持論を語り、戦争をしない国づくりに向けた選挙の重要性などについても力説しました。

◎概要
市民社会フォーラム第197回学習会
核兵器禁止条約に向けて
国連での交渉会議の到達点と今後の展望
日時 2017年4月8日(土)13:30~16:30
会場 東灘区民センター多目的ホール
講師 冨田宏治さん(関西学院大学教授、原水爆禁止世界大会起草委員長)
主催 市民社会フォーラム
協賛 かもがわ出版/非核の政府を求める兵庫の会/日中友好協会東神戸支部/灘区原水協/芦屋原水協/芦屋「九条の会」/九条の会.ひがしなだ/神戸YWCAピースブリッジ

国連では「2017年に核兵器禁止条約交渉のための会議を開催する」総会決議をもとに、核兵器廃絶に向けての交渉が開始されます。
会議は3月27日~31日および6月15日~7月7日の2回に分けてニューヨークで開催されます。
この国連での交渉会議の結果と到達点の最新情報をもとに、原水爆禁止世界大会起草委員長の冨田宏治さんに、核兵器廃絶の展望をお話しいただきます。

冨田宏治(とみだ こうじ)さん
関西学院大学法学部教授。政治学者。専攻は日本政治思想。
原水爆禁止世界大会宣言起草委員長を務める。反核平和問題、大阪都構想問題はじめ日本の政治問題についての精力的に講演している。