アメリカの離脱によって、TPPは事実上頓挫しましたが、これに伴ってRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の交渉の行方が懸念される状況となっています。RCEPは、ASEAN(東南アジア諸国連合)に加盟する10か国(インドネシア・カンボジア・シンガポール・タイ・フィリピン・ブルネイ・ベトナム・マレーシア・ミャンマー・ラオス)とASEAN以外の6か国(日本・中国・韓国・インド・オーストラリア・ニュージーランド)の計16か国が交渉をおこなっており、将来的には人口34億人・GDP20兆ドル・貿易総額10兆ドルを擁する巨大な広域経済圏の実現を目指しているとされています。RCEPはもともとASEANが提唱したもので、2013年8月に開かれたブルネイでの初会合を皮切りに、これまで通算16回の会合が開かれています。2015年6月には京都でも開催(第8回目)されています。
今回のRCEP交渉会合は通算で17回目となるもので、2017年2月27日から3月3日までの日程で、兵庫県神戸市のポートアイランドでおこなわれています。通常、国際的な会議や会合は、かなり以前から告知されるのが通例ですが、今回の会合の開催日程等を国が正式に明らかにしたのは開催のわずか数日前です。これは、TPP交渉の際に世界各地で巻き起こったような反対運動や反対世論形成の再来を警戒したものと考えられます。この点からも、「何が秘密なのかさえも秘密」というほど徹底した秘密主義が特徴のTPP交渉と同様、RCEP交渉も秘密主義で進行させるという魂胆が表れたものと考えざるを得ません。
そのような状況下、RCEP交渉会合の行方を注視し、これに向けた対応を市民レベルで考え行動するためのシンポジウムが2月26日午後に神戸市内で開かれました。「RCEPに対する国際市民会議(PECR)」および、「RCEPに対する国際市民会議 神戸実行委員会」が共同で開催したもので、会場となった兵庫県保険医協会の会議室には、120人の来場者が詰めかけました。
目次
◆鳩山元首相・行き過ぎた自由貿易や市場経済至上主義を批判
特別ゲストとして、元首相の鳩山友紀夫さんが登壇し、「アジア太平洋のメガ自由貿易協定に友愛思想の導入を」という内容で約30分にわたって聴衆に語り掛けました。鳩山さんは、首相在任当時から「友愛」という考え方を提唱しています。鳩山さんが唱える「友愛」とは、「自由」と「平等」がそれぞれ持つ正の部分と負の部分を理解しつつ、世界各国が人と人との信頼関係を構築していくべきとし、その結果として、貧富の差の改善が図られ、平和がもたらされることを願うものです。鳩山さんが「友愛」を願う強い気持ちは、2013年に自身の「由紀夫」という漢字を「友紀夫」に改名したことにも表れています。
鳩山さんは、「新自由主義は、一部の人々に富を集中させた。グローバル企業のみが繁栄し、そうでない企業や人々は必ずしも幸せを享受できない事態となっている」と指摘。また、「行き過ぎた自由貿易や市場経済至上主義が貧困を生み、格差を拡大させ、紛争や環境破壊を起こし、人権を侵害してきた」と批判しました。鳩山さんの唱える「友愛」については、「友愛という哲学の入った貿易は良い貿易である」とし、「RCEP交渉にも友愛思想を入れるべき」という考えを示しました。
◆ケルシー教授・TPPの「再活用」を批判・ISD条項に警鐘
続いて登壇したニュージーランド・オークランド大学法学部教授のジェーン・ケルシーさんは、「RCEP:なぜ日本にとっての問題なのか」という演題で講演をおこないました。この中でケルシーさんは、TPP交渉に参加してきた多くの国々が、これまでの交渉内容や成果をRCEP交渉に「再活用」しようとしている点を批判。特に、TPPで極めて重大な問題点だと再三指摘されてきたISD条項が、RCEP交渉においても生き延び続けている点に憂慮の念を示しました。また、安価なジェネリック医薬品の利用を阻害するなど発展途上国が不利となる内容も含まれていること、あるいはTPPでは多数のリーク文書があったのに対し、RCEPではまだわずかである点なども指摘しました。
あわせて、ケルシーさんは、TPPとRCEPの共通点として、秘密交渉である点を強調。交渉会合をオープンにするように働きかけることや、世界各地でのRCEP交渉に関する情報を共有していくことの重要性を説きました。
RCEP交渉が秘密会合にておこなわれることにより、強者や富める者がますます有利となり、弱者や貧しい者が疎外されていくことにつながるような内容となることが懸念されます。交渉の行方を注視しつつ、おかしな点にはおかしいと声を上げていく必要があると言えるでしょう。
◆コメント(要約)
マージョリー・パミントゥアンさん(アジア太平洋リサーチ・ネットワーク事務局長)
「主権は私たち市民の手にあるし、政府は本来それを支援するべきなのに、私たちを置いて秘密裡に決めようとしている。交渉には市民も含めるべきである」
首藤信彦さん(元衆議院議員)
「(事実上破綻した)TPPで利益を取り損ねた人たちが、ドーっとRCEPになだれこんできて、当初は牧歌的なASEAN中心の協定だったものが、変質しようとしている。TPP交渉における日本の姿勢は、TPP的な秘密主義と、日本の伝統である『民はよらしむべし』という二重の秘密主義が重なった。RCEPではこれを許してはならない」
全国保険医団体連合会・住江憲勇会長
「地域包括連携協定は、強者が弱者を食い尽くすハゲタカそのものの構図である。TPPの中身は、18・19世紀の植民地化的な経済覇権主義と何ら変わりがない。21世紀の貿易には、あくまでも互恵による対等・平等な関係構築が求められている」
兵庫県保険医協会・加藤擁一副理事長
「神戸港は『非核神戸宣言』により、核兵器を積んでいないという証明書の提出を艦船に義務付けている平和の港。今後も、新自由主義ではない平等・互恵に基づく経済交流による発展を願っている」
アジア太平洋資料センター・内田聖子代表(当シンポジウムの司会・主催事務局)
「RCEP神戸交渉の開催は2か月前から決まっていたのに、政府が正式に発表したのはわずか3日前。この秘密性は、我々がどんどん働きかけて変えていかなければならない」
◎当日配付資料
RCEPに対する国際市民会議 呼びかけフライヤー
海外NGO出席者リスト
RCEP交渉の基本指針及び目的
外務省資料
◎概要
■□■市民社会フォーラム協力企画のご案内■□■
<2/26(日)開催!RCEP交渉会合@神戸 関連企画>
RCEP会合前日!ジェーン・ケルシーさん特別講演会
アジア太平洋のメガ自由貿易協定の行方と私たちの未来
==RCEP交渉の現状と問題点を語る==
【2/27~3/3 RCEP交渉会合@神戸を機に、国内外から豪華ゲストが神戸に集結!】
■日時:2月26日(日)14:00~16:30
■場所:兵庫県保険医協会 会議室(元町駅から南 徒歩10分)
http://www.hhk.jp/pages/access.php
■講師 ジェーン・ケルシーさん(ニュージーランド・オークランド大学教授)
■特別ゲスト 鳩山由紀夫元首相
演題「アジア太平洋のメガ自由貿易協定に友愛思想の導入を」
★他、RCEP会合に合わせ来日する海外NGO、国内豪華ゲストを予定!
★「RCEPに対する国際市民会議」の神戸での活動紹介とご案内もいたします。
■ウェブサイト:http://rcepinfojp.blogspot.jp/
■共催:RCEPに対する国際市民会議/RCEPに対する国際市民会議・神戸実行委員会
■連絡先:(東京)
事務局:特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
〒101-0063 東京都千代田区神田淡路町1-7-11 東洋ビル3F
TEL.03-5209-3455 FAX.03-5209-3453
E-mail: office@parc-jp.org
米国のトランプ大統領の登場によって崩壊したTPP。しかし米国はその中身を二国間協定に持ち込み、日本を含む各国にさらに強い要求をする流れになっています。
一方、世界にはTPP以外にも、米国とEUのTTIP、サービス分野の交渉であるTiSAなど、メガFTAが並行して進んでいます。
その一つであるRCEPは、ASEAN10カ国と日本、中国、韓国、インド、豪州、NZの6カ国の計16カ国で交渉中の貿易協
定です。「中国主導」と言われ米国からも警戒されていますが、果たしてその実態はどのようなものなのでしょうか?
2月27日~3月3日まで神戸で開催される第17回RCEP交渉会合には交渉参加国から600~700名も交渉官が参加し、関税、サービス、投資など幅広い分野で交渉を行いますが、その詳細は「秘密」です。
RCEPには経済力や文化、社会、歴史も多様なアジア諸国が参加しており、日本の私たちの暮らしへの影響だけでなく、途上国や新興国の人々にも直接影響を与えかねません。
そもそも、アジアの一国である日本は、この地域で経済だけでなく社会・文化面も含めてどのような協力関係を結び、どのような「アジア」を構想すべきなのでしょうか?また現在交渉中のRCEPの中身は、平和で持続可能なアジアの実現に果たして寄与するものなのでしょうか?
RCEP交渉会合直前のこの日、TPPやTiSA,RCEPなどのメガFTAを長年ウォッチし、
国際市民社会のメンバーとして活躍するジェーン・ケルシーさんをお招きし、
RCEP交渉の現状と問題点についてお聞きします。TPP、TiSAなど他のメガFTAの最新情勢も交えながら、
世界の貿易協定の実像を知り、私たちの対案をご一緒に考えましょう。
【ジェーン・ケルシーさん】
ニュージーランド・オークランド大学教授。法律・政治、国際的経済規制が専門。
新自由主義的なグローバル経済がもたらす負の側面へ警鐘を鳴らす。特に自由貿易定に着目。
アジア、南太平洋そして世界の研究者、NGO、労働組合と連携し、国際連帯運動に大きく寄与している。
著書に「異常な契約 TPPの仮面を剥ぐ」(農文協)ほか。