【講演録】福島の愉快な農家・三浦広志さん講演会「都会を離れて福島に住もう」(2017/1/27@大阪)

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市民社会フォーラムは2017年1月27日、「福島の愉快な農家・三浦広志さん講演会『都会を離れて福島に住もう』」を開催しました。福島県南相馬市で農業を営む三浦さんは、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波で、これまで育んできた農地が水没する大きな被害を受けました。失意の中、今度は地震の後に発生した東電原発事故によって関東への避難を余儀なくされました。その後、三浦さんは福島での農業・畜産業の復興に全力で取り組み続けてきました。中でも、福島産食材の安全・安心を担保するための取り組みとして、福島産の米の全袋検査を実践したり、県外の米穀販売業者との交流会を開いて福島産農産物の販路拡大を図るといった取り組みをおこなったりして、成果を上げてきたことなどを語りました。

他方、三浦さんは、「福島の安全と危険を正しく伝えきることが大切」とも説きました。福島産の農産物の安全・安心への取り組みが成果を上げているいっぽうで、カリウム過剰の牧草を食べた乳牛が死亡する事例が相次いだ(※除染の一環として、表土を剥いだ牧草地に、土地痩せ改善とセシウムの吸収抑制のためにカリウムを含む牛糞堆肥を大量に撒いた結果、牧草中のカリウムが過剰となり、マグネシウムやカルシウムなどの体内での吸収を妨げたのが原因との説があります)ことや、ライフラインの復興が伴わないままでの避難指示解除や補償体制の不足によって、若者のいない高齢者中心の町づくりが余儀なくされてしまう可能性、そして溶融した核燃料(デブリ)の取り出し作業に伴う再臨界の危険性といったさまざまな課題点を挙げました。そのうえで、「オリンピックと原発輸出のための雰囲気づくりがどんどん進んでいる。それとどう向き合うかが、私たちの課題です」と問題を提起しました。

さらに、三浦さんは、被災地の現状について、「暗い雰囲気」であると語りました。それを改善するべく、陶芸教室を開いたり、珈琲セミナーを開いたり、芋掘り体験の場を設けたりといった取り組みをおこなっていることを紹介。「日々の生活には笑いが必要」との考えのもと、「福島県民を元気に」できる取り組みを模索していることを紹介しました。

あわせて、国や自治体、東京電力との補償交渉を粘り強くおこなっていることや、太陽光発電の導入などを通じ、被災者本位の福島復興のために奔走していることを紹介。福島の現状について良い点も課題点も挙げたうえで、「農業の担い手の拡大が地域を元気にする」との考えのもと、「あえて、いま、福島だから、楽しい農業ができる」とし、福島での農業を新規に営む若者を募っていることを明るく語りました。とくに、「福島の浜通りには希望がないんです。でも目の前の課題を一つずつ諦めることなくクリアしていくと元気になれるんです」と語り、課題山積の中でも明るく元気よく、前を向いて復興に取り組んでいる三浦さんの姿勢を象徴するコメントであるという印象を受けました。

この講演では、三浦さんの奮闘を紹介した《福島のおコメは安全ですが、食べてくれなくても結構です。》という刺激的なタイトルの著書を執筆した、かたやまいずみさんが司会を務めるとともに、講演のあとには三浦さんとの対談をおこないました。その中で、かたやまさんは、著書のタイトルを見たネットユーザーなどから激しい批判を浴びて炎上状態となったと語りました。それに対し、三浦さんからは、福島産の産直品を取り扱っている関西の相手先が、「この本が決定的だったよね」と語っていることを紹介。安全・安心に向けての福島の生産者の取り組みや現状の正しい理解に向けて、この著書が役立っていることを証明した格好となりました。また、三浦さんは、「毎年3月11日が近づくと悲しそうな画をテレビ局が撮りたがる」といった、福島に対する予定調和的な見方があることを紹介。そうしたメディアに対しては、2時間ぐらいかけて福島の現状について解説し、理解を求めていることを明らかにしました。そして、三浦さんは、「林野庁は200年たてば山は元に戻るから、それまで山の管理をやっていくと言っている。200年のうちの初動20年を私たちは走り抜けていくしかないです」と語り、地域の将来を見据えた長期スパンでの取り組みが必要であることを示唆しました。

 

◎概要

市民社会フォーラム第195回学習会
福島の愉快な農家・三浦広志さん講演会
「都会を離れて福島に住もう」

日 時 2017年1月27日(金)18:30~20:30(18:00開場)
会 場 シアターセブン BOXⅠ(大阪・十三)
協 賛 かもがわ出版

『福島のおコメは安全ですが食べてくれなくても結構です』(かたやまいずみ著・かもがわ出版)の主人公・三浦広志さんが、南相馬市再生への取り組みや福島での農業の現状についてお話しします。

【三浦広志(みうら・ひろし)さん】
福島県南相馬市の農家。みうらファミリー農園代表。
福島第一原発の炉心から11kmの地点にある5haの農地で専業農家を営み、無農薬・減農薬の米や野菜などを作っていた。
学校を卒業した息子さんと農業を始めた矢先に東日本大震災被災。
壊滅的な被害を受けながらも、地域の農業の復興をめざして、直後から国・東電・自治体等との交渉を始める。
また、NPO法人「野馬土」を設立、産直品の販売、イベント開催など多彩な活動を展開している。

【『福島のおコメは安全ですが、食べてくれなくて結構です。三浦広志の愉快な闘い』】
(かもがわ出版サイトより http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ha/0753.html
1000万袋以上のうち、2012年=71、13年=28、14年=0。
3年を経て福島のコメからは、国基準以上のセシウムは検出されなくなった。
普通の除染のように土を取り除くと、田んぼから栄養も奪われる。
だから、セシウムの多い表土を掘り起こし、稲が吸い込まない下の方に埋め返す、そんな地道な作業のくり返しだ。
福島の農民の努力と厳格な検査の結果、コメの安全性に三浦は自信がある。
しかし、「食べてほしい」とは言わない。
「安全」の押しつけと反発する心も分かるから。
ただただ安全なコメをつくり、測り続ける。
売れないのは国と東電の責任だから、「食べる」「食べない」で国民が分裂してはダメ。
売れないことの賠償は国・東電に求める。
長い闘いだから楽しくやりたい。
三浦のまわりには笑顔と笑い声があふれる。農民・三浦の愉快な闘いの記録。