【動画紹介】高遠菜穂子×雨宮処凛 戦争と貧困のリアル(5/4@神戸)

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2016年5月4日、イラク支援活動に従事する高遠菜穂子さんと、作家の雨宮処凛さんを招いて講演会を開催しました。講演の前半は高遠さんによる単独公演、後半は高遠さんと雨宮さんによる対談形式でおこないました。

高遠菜穂子さんによる講演

【動画の一部の要約】

イラク戦争の大義は「大量破壊兵器の保有疑惑」であったが、これは誤りだった。国連監視検証査察委員会のハンス・ブリクス委員長は、500か所・700回に及ぶ査察を実施し、大量破壊兵器はなく、造る能力もないと言った。イラク政府は査察を喜ばなかったものの全く妨害しなかった。さらにブッシュ政権が100か所の追加を指定し、30か所の査察を終えた時点で、アメリカはイラクへの攻撃を始めた(2003年)。

一方、ブッシュは2005年、イラク大量破壊兵器に関する誤りを認めた。イギリスのブレア首相も、間違いを認めた。対するに、イラク戦争を支持した日本はどうか。安倍首相は「イラク戦争は大量破壊兵器が存在しないことを証明できなかったイラクが悪かった」との立場をとり、外務省も湾岸戦争(1991年)とごっちゃにして、間違った戦争ではないという主旨のことを言っている。英ブレア首相は米CNNの番組に出演し、「いま台頭しているIS(イスラミッククステート)は、イラク戦争に起因しているのは間違いない」と述べた。翻って日本では、国会でイラク戦争はイラクが悪いと首相が言う。なぜ日本が、最初から大義が怪しい、国際法違反と言われてきたイラク戦争を支援したのかという点が、13年たってもいまだに明らかにされない。

日本と同様にイラクのサマワに部隊を派遣していたオランダは、イラク戦争終結後にオランダ政府自ら検証委員会を立ち上げ、イラク戦争はそもそも国際法違反だったと結論付けている。そういったことを日本政府は調査し知っているはず。にもかかわらず、それを明らかにしないのは、いかにして国民に知らず、いかにして騙すかという動きだったということか。そうだとしたら、あまりにもひどくないか。今後、そのあたりの問題を明らかにしていきたい。

ただ、それをやるには世論喚起が必要。皆さんの後押しが必要。イラク戦争の検証は難しいからできないということではなく、イラク戦争の検証こそ必要である。安保法制が施行されたいま、これからどんどん私たちは、よく分からない間にこういったもの(戦争)に付き合わされていくことが増える可能性がある。さらに秘密保護法もあり、当時より状況は悪い。私たちにはもっと知らされないままで、気がつけばすごいところに連れて行かれていることになる。騙されていたということに気づかなければ、これからも騙され続ける。それは繰り返してはいけない。そのために、イラク戦争の検証が必要である。

(上記要約は講演のごく一部にすぎませんので、詳細はぜひ動画にてご確認ください)

高遠菜穂子さんと雨宮処凛さんによる対談

【動画の一部の要約】(敬称略)

雨宮:71年前の戦争のとき、当時はPTSDという概念がなかったので「戦争神経症」と呼んでいたらしいが、それを研究している人に最近話を聞いた。すごく差別が酷かったことを知った。当時の戦争神経症を診る医者が、「女々しい」などと(カルテに)書いていた。当時は、弱さに対する嫌悪、ウィークネスフォビア(臆病罪)、つまり国のために少しでも恐怖心を見せるというのが罪になった。当時の陸軍病院などでもそういったことがあった。当時は、結婚し仕事に就いたらもう治ったとされていたらしい。それらは全然表に出てこなかったが、70年前の戦争で重篤なPTSDになって、いまだに入院している人がいるという記事が、去年の夏に西日本新聞に載った。これは数十年で終わる話ではないということ。当時20歳ぐらいで従軍した人が、90代になった今でも九州で入院している。それを想うとき、いま大きな岐路にいるんだなとあらためて思う。

雨宮:最近びっくりしたことがある。漫画雑誌に載っていた内容が、そのまんま経済的徴兵制の内容だった。主人公は大学進学を目指す男子高校生。学力はあるけれども、家庭の事情で学費が払えないし、奨学金を返す当てもない。そのときに学校から勧められたのが、防衛大。学費はタダ、毎月手当(特別職国家公務員)が9万円ほど出るし、夏冬ボーナスも出る。

高遠:東京とかでポスティングされているチラシに、「福利厚生充実」「東京湾クルーズ」とか入ってる。

雨宮:ネイリストの資格まで取れる。自衛隊に入ってネイリストの資格が取れるとは思わなかったのでびっくりした。

高遠:自衛隊に入ると、自動車免許が取れるなど、特典をすごく押してくる。北海道では、音大生がけっこう自衛隊に入隊する。自衛隊の楽隊は忙しい。音大を出て、一般企業に勤めるよりも音楽を続けたいという人は、自衛隊に入る人もけっこういる。

雨宮:経済的徴兵制って、まがまがしいものというか、奨学金を餌にして、国家がこういうことまでするんだなと、私は貧困ビジネスのように見ていた。漫画で防衛大が貧困層の希望の星のように描かれていて、しかも日本全国津々浦々で売られている中高生に人気のある漫画に、手取り幾らでとか書かれてたら、影響力がものすごく大きいと思う。

高遠:米兵も、大学へ行くためとか、奨学金とか、借金を返すといった理由で兵士になった人が多い。でも、PTSDになったり自暴自棄になったり、アル中のようになったり、ドラッグを浴びるようになったりした人の中には、普通の生活のほうが苦痛になって、逆に戦場に戻りたいという人もいたりする。戦場でやってきたことと、家に帰ったときの自分が、いいお父さんだったりいい息子だったりしないといけないこととのギャップや折り合いのつかなさが、米兵たちを追い詰めていた。私はこれと同じことが近々日本にも来るんじゃないかと、すごく怖い。

雨宮:多分、自分には関係ないと思っている層も一部いるかもしれない。でも戦場で傷ついた人をどう社会が迎えるか、多分無関心だと思う。「どうせ自分達には関係ない」、そういう声に晒されるような気がする。(派遣された自衛隊員が)PTSDとかになっていって、社会全体が壊れていく問題になると思うが、なかなかそこは理解されていない。

高遠:私、千歳(出身地)で「菜穂ちゃんまだ頑張ってるの?」と言われる。「危ないところは自衛隊に任せたほうがいいんじゃないの?」と言われる。

雨宮:その自衛隊って、近所の息子さんとかどこかのお父さんなのに。

高遠:心配して言ってくださるのだろうけども。やっぱり幻想があるのだと思う。基本、演習場しか知らないから。「銃を持っている=守れる」みたいな。銃という道具が、日本の人たちにとっては「人を守る道具」みたいな。でも、あの道具って、人を守る道具じゃなく、人を殺める道具。

高遠:自衛隊は、一歩外に行ったら、どこから見ても軍だし、戦車、武器。例えばPKOも、ピース・キーピング・オペレーションという軍事作戦。だけど、日本語になったときには平和維持活動、何か良い活動みたいな感じになる。そういう日本語の感覚は「違うんだよ」というのが私たち(イラク支援活動をしている人)の中にある。アルジャジーラが放映した自衛隊の特集は、日本が軍隊を持っていることを悪いと言ってるのではなく、いままで日本に対して思っていたイメージとどうやら実情は違うということをドキュメンタリーにしたということ。つまり、広島・長崎の惨禍を経て奇跡の高度経済成長を成し遂げた日本≒軍隊のない国みたいに思っていたのが、実際には武装した日本人がいるんだ、みたいな。日本には平和憲法、憲法9条もある。でも、事実上の陸・海・空の軍隊が全部ある、すごい訓練をやっている、けっこうな軍事力を持っている、みたいな。

雨宮:タックスヘイブンの問題。調べれば、テロ資金をプールするところに回ったり、マネーロンダリングとかにも使われたり、どこか戦争みたいなものと絡んでくるというのもあるんじゃないか。

高遠:出てきそうだよね。

雨宮:出てくると思う。

高遠:武器商人の世界はいまもバブルがすごい。

雨宮:1回の空爆で1億円掛かるから空爆自体が利権になっているという話を聞いた。

高遠:売り先は誰でもいい状態。いまほど誰もが武器武器言っているときはない。イラク・シリア国境などの警備やテロ警戒のために、少数民族も自分たちを守るために武器が必要だと言っている。バグダッドでは毎年3月に武器見本市をやっていて、参加国・参加企業が増えている。最近は日本も横浜で武器見本市をやったし、フランスでも参加している。気持ち悪いと思ったのは、それを日本はあくまで経済ニュースで報じていること。そこに血の匂いが全然しない。最初から最後まで経済のニュース。そこがすごく嫌だなと思った。ヤフーで日本語のニュースを見た後に、イラクでテレビを見たら、空爆で殺されている子供が脳みそや腸わたを出して死んでいる。私は(その差に)もう吐きそうだった。

(上記要約は対談の中のごく一部にすぎませんので、詳細はぜひ動画にてご確認ください)

◎開催概要
高遠菜穂子×雨宮処凛 戦争と貧困のリアル

日 時 2016年5月4日(祝・水)18:00~20:30(開場17:30)
会 場 兵庫県私学会館4階大ホール
講 演 高遠菜穂子さん(イラク支援ボランティア)
対 談 雨宮 処凛さん(作家)

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安倍政権は安保法制に基づく戦争をする国づくりを着々とすすめる一方で、テロなどの「緊急事態」を名目に改憲を参議院選挙の争点にしようとしています。
参議院選挙ではアベノミクスの評価も争点になりますが、社会保障削減と消費税増税により貧困と格差の拡大は、「子どもの貧困」「奨学金地獄」など若い世代にも大きく波及し、自衛隊海外派遣のために「経済徴兵制」の危惧も生まれています。
日本国憲法が公布され70年を迎える今、若い世代の未来のためにも、平和主義・民主主義・立憲主義を市民の手に取り戻すべく、開催いたします。
イラク支援のボランティアとして戦場を観てきて、間違った戦争であるイラク戦争の検証を日本政府に求めている高遠菜穂子さんと、
若者の生きづらさを取材し、反貧困運動の先頭に立っている作家の雨宮処凛さんに、戦争と貧困の現実と解決の展望についてお話しいただきます。
総合司会として、地元兵庫から元自衛官の泥憲和さんが進行いたします。

※総合司会を予定していた泥憲和さんは都合により欠席になりました※

プログラム(予定)
第一部 高遠さんの中東問題の報告
第二部 雨宮さんと高遠さんの対談

高遠菜穂子(たかとお・なほこ)さん
イラク支援ボランティア。1970年、北海道生まれ。大学卒業後、会社員を経て地元で飲食店経営に携わる。2000年インドの「マザーテレサの家」、2001年からタイ、カンボジアのエイズホスピスでボランティア活動に専念。2003年5月からイラクでの活動開始。2004年4月にイラク・ファルージャで「自衛隊の撤退」を要求する現地武装勢力に拘束された。解放後、日本国内で「自己責任」バッシングを受ける。現在もイラク人道・医療支援活動を継続中。「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」呼びかけ人。著書に『戦争と平和 それでもイラク人を嫌いになれない』(講談社)『破壊と希望のイラク』(金曜日)など、共編訳に『ハロー、僕は生きてるよ。ーイラク最激戦地からログインー』(大月書店)。

■雨宮 処凛 (あまみや かりん)さん
1975年生まれ。作家・活動家。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』でデビュー。以降、プレカリアート問題を中心に執筆。06年からは新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。メディアなどでも積極的に発言。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)はJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長。
『右翼と左翼はどうちがう?』『14歳からの原発問題』『14歳からの戦場のリアル』(川出書房新社)等、著書多数。

同日同会場にて開催、こちらもぜひご覧ください。
『ファルージャ イラク戦争人質事件…そして』上映&高遠菜穂子さんトーク 14:00~17:00

【講演録】映画「ファルージャ」上映後の高遠菜穂子さんによるトーク(5/4@神戸)

翌5/5にも「高遠菜穂子さんトーク~命に国境はない@北新地サンボアバー」が開かれました。

【動画】雨宮処凛&高遠菜穂子講演会「戦争のリアルと貧困のリアル」(2016/5/6金@大阪)