【動画】鳩山友紀夫・元首相講演「沖縄と東アジア共同体」(2018/4/28神戸)

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在日米軍基地問題や島嶼防衛問題等をテーマとするドキュメンタリー映画「標的の島 風(かじ)かたか」の上映とあわせておこなわれた、鳩山友紀夫・元首相による講演です。以下のテキストは講演内容のダイジェストです。

2年前の今日、何が起きたかご存知ですか?

2年前の今日、何が起きたかご存知ですか? 映画の中に出てきたんじゃないかなと思うんですけれども、2年前の今日、沖縄で女性が殺されたんです。2年前の4月28日なんです。(被害に遭うのは)ひょっとしたら私かもしれないというような、悲痛なお話が映像に映ったと思います。ああいう被害にいまだに遭っているのが沖縄なんです。

私は沖縄の問題で大失敗をして政治家を辞めた人間

私は、沖縄の問題で政治家を辞めた人間です。今はこちら側(女性問題)のほうで辞める方が増えてしまっているように見えますが、私はむしろ沖縄の問題で大失敗をしてしまって、そして辞めた人間です。沖縄の皆さんには大変申し訳なく思っています。本来、普天間の移設問題で辺野古はノーだと、最低でも県外だと、県外にしなきゃダメだぞと、これは信念のように思っていたものですから。民主党の中では、必ずしもそこまで言うのかという思いがあったようでありますけれども、でももともとは民主党の中で謳っていた文句だったものですから、そのことを私は使わせていただいて、それを公約にしたんです。が、それができなかった。大変申し訳ない思いで、辺野古に戻してしまったその責任を取って、2010年6月に首相を辞めて、その後、次の選挙には出ないで政治家を引退した人間であります。

鳩山に怒りをぶつけておられた方々が今は応援してくださっている

その私が、不思議なことに、こういう場に呼ばれるようになっている。どの地域よりも沖縄に行くと、鳩山さん頑張ってくださいね、という、今でもそういう気持ちを私に伝えてくださっているんです。2010年、私が失敗して総理を辞めた後、何度も沖縄に参りましたけれども、最初の頃は、辞める直前の頃から、「怒」「怒」「怒」「怒」という、「怒」りというプラカードを持っていた方々が、私にプラカードを突きつけて、大変怒った表情で、鳩山の変心に対して、怒りをぶつけておられた。その通りだと思うんです。でも、あの当時は私も怒ってました、みたいな方々が、今は私の応援をしてくださるようになっている。鳩山に対して、本来ならば持っていたはずの怒りが、今は 優しさに変わっているということは、鳩山自身はヘマをしてできなかったけれども、しかし沖縄に面と向かって正面から努力をしてくれた人間がそんなにいない中で、お前はやってくれたんだよなと。できなかったけれども、やってくれたんだよな、ということでの評価をしてくれているわけです。

沖縄の方々が差別を受けているということ

当然のことながら、政治家というのはまさに政治的な責任、結果責任を問わなければいけないわけですから、結果がうまくいかないものに対して、そんな満点の評価というのをいただけないことは分かっています。けれども、そういう方々が応援をしてくださっている。それが何を意味しているかというと、沖縄の方々がずっと、いわゆる内地の、本土の人たちから差別的な扱いを受けていたということなんです。その部分も、今回の映像の中にも映ってると思います。いろんな方々が、それこそ自分たちにとってみて、何のメリットもないことであるにもかかわらず、毎日毎日、辺野古のテントに行って、テント前でずっと座り込みを続けてくださっているということは、楽な話じゃないです。私も年に3~4回は慰問のような形で訪れているわけですけれども、しかし、それを朝から晩までずっとおじいちゃんおばあちゃんが続けてくれている。本当にこれは誰だってできるなんて話じゃないです。にもかかわらず、そういう人たちに対してのヘイトスピーチまがいのことを投げかけてしまう方々もいるわけなんです。どんなに辛い思いをされているかと思いますけども、やはりそれだけ、ずっと差別的な感情をぶつけられてきているということ。それだけに、真面目に、私としては、この失敗をした人間だけに、その後は極力彼らに寄り添いながら、仕事をしなきゃいけないなと。

軍隊は私たちを守ってくれなかったじゃないかという思い

マラリアの話も(映画に)出てまいりました。3700人の方がマラリアで亡くなっていると。どっちに行こうか、本土に行ってもいいけど、やはり沖縄で留まる選択をした人たち。軍から、逃げろ、ここにいてはいかんと、ここにいると逆に困ると、秘密を暴露されたらいかんということで、その場にいると逆に軍の秘密がばれるからといって殺されてしまった方々もたくさんいる。逆に、じゃあ逃げようということで、石垣とかいろんなマラリアの蚊の多いところに移り住んで、そこでマラリアにかかって多くの命が失われてしまっていると。実際に銃などでアメリカ軍に殺された人たちよりも圧倒的に多くの方が、そういう形で命を奪われてしまっているということ。だから、軍というものに対して、非常に嫌悪感というか、軍が来るとまた戦争になるんじゃないかと。自分たちが防波堤、風かたかというのも、どうもそういった風よけという意味で防波堤ということなんでしょうけれども、自分たちは防波堤にさえならなかったんだよと。それがまた、石垣とか宮古とか与那国、実は昨年私も沖縄本島だけではなくて、宮古島、石垣島、そして与那国島まで行って、そこに自衛隊が配備されつつある、ミサイルが置かれるような場所を見てまいったのであります。ここに何でこのようなものが必要なのかなということを感じざるわけにはいかなかった。ただ、私たちが戦略的に必要だとか必要でないということより以前に、沖縄の人たちは、この自衛隊=昔の軍だという思いが強いものですから、そして軍隊は決して私たちを守ってくれなかったじゃないかと。むしろ軍隊によって私たちは殺されたんだよという、その悪夢が、またよみがえってきてしまっているというだけに、非常に拒絶反応が強いです。

基地に賛成の方々のほうが勝ってしまうという現実

ただ、一方では、賛成の方々も話をしてましたよね。私は賛成だと。これは、両方の声があるということがお分かりになると思いますし、宮古とか石垣の市長選でも、むしろどちらかというと、小差であっても、賛成の方々のほうが勝ってしまうという現実があります。私もこれは大変辛い話だと理解をしております。けれども、どうもやっぱり政府の言うことを守っていたほうが、いろいろと地域の振興にはいいじゃないかと思う人たちもたくさんいる。例えば沖縄に米軍基地があることで経済が成り立ってるんでしょ、みたいなことを言う人たちがいるんです。けれども、そうではなくて、基地が民間に開放されて民間の施設になったほうが、圧倒的に雇用なども、仕事が増えて、経済が発展してきているということは、もう現実の数字で表れているものですから、そこは明らかに否定ができる話なんです。が、でも中国が怖いじゃないかと。あるいは、北朝鮮も何するか分からないじゃないかと。このときの防御のために日本の最南端の地域で中国から守らなければいけないんだと。島を取られてはいけないんだから、というような思いで、第一列島線というのがあるんですけどね、その辺りに。そこから中国が入って、東のほうに行かれたらたまらないぞと。だから、アメリカと日本が協力をして、その第一列島線のところで抑えなきゃいけないんだと。それが宮古であり石垣であり与那国で、ここのところを突破されちゃいけないから、だから自衛隊をここに置くんだという論理であります。この論理そのものも、アメリカの論理で、私は今更、何をそんなことを言う必要があるのかと思うような論理であるわけですけれども、でもそのような論理がむしろそれぞれの島に行くと、防衛することは必要じゃないか、経済のためにはやはりあったほうがいいじゃないかと。年々人口が少しずつ減ってしまっている島からすると、自衛隊が50人100人200人、もし来てくれたら、その影響は大きいじゃないかという、非常に単純な発想の中で、むしろ協力的な方々が選挙などに勝利をしてしまうというのが、昨今の現実の姿になってしまっています。

米軍以上に自衛隊に対する拒絶反応が強いように感じた

少なくとも沖縄の皆さんは、私たち以上に、かつての戦争のときに、俺たちの仲間を多く殺してしまったのは、あなた方の先輩じゃないかという気持ちがあるだけに、どうも正直に聞くと、米軍以上に自衛隊に対する拒絶反応のほうが強いように私には感じたところであります。自衛隊は皆さん方、特に地震のときなど、大変努力をしてくださったから、そういう意味で私たちの命を守る大事な仕事をしてくれている方々であることは、私たちも認めるべきだし、そのことは評価をするべきだと思っています。けれども、いわゆる戦略的な安全保障の立場の中で、どのぐらいの人たち(兵力)をどこにどう置くのかということに関しては、もっと真面目に私たちは考えなければいけないと思います。

学べば学ぶほど抑止力云々…抑止力のワナ

抑止力という言葉があります。抑止力として必要なんだということのようでありますけれども、私は抑止力というのは、私自身が首相のときに、学べば学ぶほど抑止力云々とか言って、それも大きな批判を浴びたことがあります。抑止力というものは、私は抑止力のワナだというふうにあるとき申し上げたことがあるんですけれども、皆さん、例えば、私は中国が脅威だと思っていないんですけれども、中国が脅威としましょう。少なくとも安倍さんはそう思っていた時期がある。中国は脅威だと。だから沖縄に自衛隊を配備しなきゃいかんのだというようなことで、自衛隊の配備を強化をすると、当然そのことは中国側にも伝わって、中国は、それは困ったと。日本がそんな考え方を持つなら、それは脅威だなということで、日本が自衛隊を増強するのにあわせて、当然のことながら中国は武力を、軍事力を増強させていくと。そうなると、その軍事力が増強された中国を見て、今度は日本のほうも、それならばといって、お互いにポジティブなフィードバックというんですけれども、どんどんどんどん軍事力を強化しなければいかんぞ、という話になってしまいかねない。だから下手をすると、抑止力というのが軍事競争になる。そうして緊張感が高まっていくと、あるところで緊張の糸がポンと。どこかで石か何か投げられて当たった、痛い、この野郎! と言って喧嘩になる可能性だってあるということで、私は抑止力で競争していくと、逆に抑止力を失うんじゃないかというか、すなわち何らかの拍子で、戦争のようなあるいは紛争のようなことが起きやすい環境になってしまうんじゃないかと。これを抑止力のワナとか勝手に呼ぶと、そういうことがありうる、パラドックスみたいなものがあるように思います。ですから、抑止力という言葉自体も、真剣に慎重に扱わなきゃならないことだと思っていますが、でも沖縄の海兵隊の必要性をいわれるときに、今でも日本の政府、あるいは安倍首相は、抑止力のためにと非常に安易にお使いになっていると私には思えてなりません。

東アジアに不戦共同体を作ることが必要

私は、平和というものを決して武力では作ることができないと信じている人間です。武力で威嚇をして、あるいは人を殺して平和なんて言えるわけがないじゃないですか。いかにして武力を使わないで、すなわち対話と協力という路線を貫いていきながら、この世界を安定させていくかということが大事で、それを私は、このアジア、特に北東アジアを中心だとすると、東アジアにおいて中国・韓国・日本が協力的になることによって、またASEAN10ヶ国もその中に入って、この地域が共同体、すなわち二度とこの地域では戦争が起きない不戦共同体をいかにしてこの東アジアの中に作ることが必要かということを、これから訴え続けていきたいと思っています。信じられないかもしれませんし、ほとんど知られていないことですが、東アジア共同体という言葉は、実は私よりも先に、政治家としては小泉純一郎総理が使っているんです。東アジア共同体というと、鳩山が勝手に使っている言葉だというふうに思われているかもしれませんが、東アジア共同体という言葉は小泉純一郎先輩のほうがはるかに先にお話をされていたわけでございます。

脱大日本主義という考え方を世に問うていく

なぜ私がこういうことを最近皆さん方に申し上げているかというと、やはりこの国が、武力によって大きな国になることを願っているのだとすれば、それは大きな間違いではないかということを申し上げたいからなんです。すなわち、安倍首相は集団的自衛権の行使も認めさせたわけでありますけれども、どうも武力によって私たちは普通の国になるんだ、強い国になるんだと、それは過去の日本が間違えた大日本主義に非常に近い発想ではないかということを私は大変心配をしています。日本はかつて明治、今年が明治150年ということで、明治維新を非常に高く評価をして、大きなイベントをやるということも考えられてるのかもしれませんが、明治は確かに文明開化で非常に優れたこともたくさんあったと思いますけれども、一方では富国強兵という、国を富ますけれども、まさに富だけではなくて大きな兵力を持つことが大事だという発想になった。その発想が結果として、朝鮮半島をいただいて、台湾をいただいてという植民地主義に固まって、その後が満州事変になり、そして第二次世界大戦、太平洋戦争までやってしまって、大敗北をするという状況に自らを追い込んでしまったわけであります。この間違いを繰り返してはいけない。大日本主義という、すなわち軍事力で大きな顔をするような日本を目指すのは、やめようではないかと。私は脱大日本主義という考え方を世に問うています。大きな軍事的な、あるいは政治的な能力を持った大きな国を目指すことから解放されて、この国にふさわしい中ぐらいのサイズの国であっても、この国に住んでよかったなと、特にお年寄りの方々の側からみて、みんなこの国で自分たちの余生は暮らしたいなというぐらいの国に仕立てていくことができないだろうかと。戦争という武力的な行動ではなくて、むしろ平和でよりお互いに協力的な関係を作ることによって、日本が周辺の国々にもう一度尊敬され信頼され、そしてお互いに仲良く手を携えていけるような環境を作ることができないかなと考えております。

 

鳩山友紀夫・元首相講演「沖縄と東アジア共同体」
日時:2018年4月28日13:00~14:00
会場:けんみんホール(兵庫県民会館9階)
主催:「標的の島」神戸上映実行委員会

※この講演は、「標的の島 風(かじ)かたか」の上映とあわせて開催したものです。

◆鳩山友紀夫(はとやま・ゆきお)さん略歴

1947年生まれ。 元内閣総理大臣、東アジア共同体研究所理事長、日本友愛協会理事長。
東京大学工学部卒業、スタンフォード大学工学部博士課程修了。
86年、総選挙で旧北海道4区(現9区)から出馬、初当選。
93年、自民党を離党し、新党さきがけ結党に参加。細川内閣で官房副長官を務める。
96年、民主党結党、代表に就任。98年、旧民主党、民政党、新党友愛、民主改革連合の4党により(新)民主党結党。
2009年、民主党代表、第93代内閣総理大臣に就任。
10年、総理大臣を辞任。12年、政界引退。
13年、一般財団法人東アジア共同体研究所を設立、理事長就任。
氏名表記を鳩山由紀夫から鳩山友紀夫に変更。



◆映画「標的の島 風(かじ)かたか」のご紹介

監督:三上智恵/2017年/日本/119分 
(公式サイトより http://hyotekinoshima.com/introduction/


 「標的の島」とは、沖縄のことではない。
それは今あなたが暮らす日本列島のこと。

2016年6月19日、沖縄県那覇市。米軍属女性暴行殺人事件の被害者を追悼する県民大会で、稲嶺進名護市長は言った。
「我々は、また命を救う“風かたか”になれなかった」。
「風(かじ)かたか」とは風よけ、防波堤のこと。
沖縄県民の8割の反対を黙殺した辺野古の新基地建設、全国から1000人の機動隊を投入して高江で強行されるオスプレイのヘリパッド建設。
現場では多くの負傷者・逮捕者を出しながら、激しい抵抗が続く。
さらに宮古島、石垣島でミサイル基地建設と自衛隊配備が進行していた。 

なぜ今、先島諸島を軍事要塞化するのか?
それは日本列島と南西諸島を防波堤として中国を軍事的に封じ込めるアメリカの戦略「エアシーバトル構想」の一環であり、日本を守るためではない。
基地があれば標的になる、軍隊は市民の命を守らない―沖縄戦で歴史が証明したことだ。
だからこそ、この抵抗は止まない。
この国は、今、何を失おうとしているのか。
映画は、伝えきれない現実を観るものに突きつける。

 歌い、踊り、咲き誇る文化の力。
「最前線」に集まる人々、新たなる希望。 

監督は『標的の村』『戦場ぬ止み』の三上智恵。
大学で民俗学も講じる三上が描くのは、激しい抵抗や衝突だけではない。
エイサー、パーントゥ、アンガマ、豊年祭。
先祖から子孫へと連なる太い命の幹、権力を笑い飛ばし、豊穣に歓喜する農民の誇りと反骨精神。
島々の自然と歴史が育んだ豊かな文化がスクリーンに咲き乱れる。
そして、県民大会で古謝美佐子が歌う「童神(わらびがみ)」、辺野古のゲート前でかき鳴らされる三線の音色。
高江のテントで「兵士Aくんの歌」を歌う七尾旅人のまわりには全国から駆けつけた若者たちの姿があった。
この一年で安全保障政策を大転換したこの国で、平和と民主主義を守る闘いの「最前線」はどこか?
それに気づいた人々が、今、沖縄に集まっているのだ。