2017年8月27日に大阪梅田で開催した、松尾匡さん(立命館大学教授)と井上智洋さん(駒澤大学准教授)によるスペシャル対談です。
この対談のテーマは、「『ひとびと』のための経済、そしてベーシックインカム」です。日本に蔓延するデフレマインドを鮮やかに払しょくするべく「反緊縮」を提唱する松尾教授、そしていわゆる「ヘリコプターマネー」の若手論客である井上准教授という異色のタッグが実現。停滞から脱却し、誰もが等しく経済成長の恩恵を享受し、自由で楽しい社会を実現するための経済政策とは何かという、一見するとお堅い内容を、真面目なトークの中に、時に爆笑トークも交えつつ存分に語ってくださっています。
目次
◎講演の文字起こしテキスト
松尾:どうも、立命館の松尾でございます。
井上:駒沢大学の井上です、どうぞよろしくお願いします。
松尾:井上先生とは、初めてお会いしたのはいつ頃でしたっけ?
井上:いつでしたっけ? 多分日経学会、日本経済学会で3、4年ぐらい前ですかね。
松尾:まだ院生?
井上:そうですね。大学院生でしたね。じゃあ、5年以上前。
松尾:そうでしたか。すごい優秀な院生のイメージでしたけど。
井上:そんなことはないです。
松尾:いやいや、本当にそんなイメージでしたけれども、知らない間にすごい有名人になって引っ張りだこで。今日はちょっと教えていただこうというような感じですが。
井上:いえいえ、そんな。
松尾:ぶっつけ本番という話でしたけど、さっき打ち合わせをしようとか言って、そこのカフェで打ち合わせと称してご飯を食べに行ったら、打ち合わせではなくて打ち上げみたいな話で。
聴衆:(笑)
松尾:始まる前から打ち上げするとか、そんな感じでしたけれども。一応主催者側からは講演に、先ほど司会の方がおっしゃってましたけど、これに沿って話をしろというのは一応与えられているので、それに沿って今日はやっていくと。やっている間にどういうふうに転んでいくか分からないというような感じでやっていきたいと思いますけども。
井上:この紙すら持っていらっしゃらないですけど。
松尾:すみません。
(1)今後景気はよくなっていくのか?
松尾:「今後景気はよくなっていくのか」というのが最初のテーマなんですけど、どうですか?
井上:そうですね、やっぱりこの先日本経済を考えるとかなり危ういなと思ってまして。
松尾:どのぐらいのタイムスパンが…
井上:まず2019年の消費税の税率引き上げまではこの調子で?
松尾:今年はとか、そういうような感じでは言ってましたけど、浜(矩子)さんの本ですね、毎年たいてい年末になると出てくる大予言の本ですけれども、なかなか出なかったから、あの人が大予言の本を出していないのは、実は2008年だけで。そのときはたまたま大恐慌が起こったというか。
井上:リーマンショックが起きてしまったんですね。
松尾:そうそう。リーマンショックが起きてしまった。出なかったら、2017年はリーマンショックか?とかっていう、そんな話出てくる。結局(本が)出たという話ですね、安心しましたけど。今年は大丈夫、今年は。
井上:2019年には、もしかしたら本が出ないかもしれないですよね、また今度アクシデントが起きて、それで消費税率引き上げと重なってえらい不況がやってくるかも分からない。あと2020年って東京オリンピックってありますけども、オリンピックについてはどう考えていらっしゃいますか?
松尾:多分その頃になると、ある程度雇用問題とか解決していると思うんです。むしろ人手不足のほうが重要な時代になっているんじゃないかなというふうに思っています。ということなので、ちょっとその前の話、今年とかその辺の話をさせていただきたいと思います。すいません。
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◆松尾教授解説
このかんの景気の動きというのが、だいたい政府支出、後からそういう話出てくると思いますけどね、政府支出がどれぐらいされるかということにだいぶ依存しているわけですね。これはいわゆる公共事業ですけれども、公共事業、実質の固定資本形成ですが、これは安倍政権が始まったときのことで、1年足らずの間は公共事業がものすごく拡大してるんですね。でもそれが1年足らずの間で終わってしまって、あとは基本的に緊縮してるんですね。公共事業を減らしているという、こういう流れです。いろんな社会保障とかは、高齢化が進んでいきますんで増えていくんで、自然増があるので、それにプラスした政府支出全体というのはこんな感じ、黄色のグラフですが、こんな感じで1年足らずの間ワーッと増えてるけども、あとは頭打ちという感じです。そうすると、実質GDPがこの黒い線ですけれども、だいたい同じような動きになっている。スケールをちょっと調整しまして重ねて書くと、ほぼ同じ形で動いているということで、最初安倍政権発足後1年足らずの間はワーッと増えてるけれども、あとは基本的に頭打ち。直近は輸出が増えているので、ここが増えていると。こんな感じですね。ということなんですが、安倍さんだいぶ支持率落ちましたんで、いろいろスキャンダルとかもありまして、ひょっとするとこれは権力を失うと犯罪者か、というそんな状態ですから多分必死だろうと。必死だし、もともとの野望は、自分の手で必ず改憲を成し遂げて、戦後民主主義体制に代わる新しい体制を築き上げてやろうという、そんな執念だけはものすごく強く持っていると思いますので、このまま終わらんぞということだと思います。
これは2013年の10~12月期と比べた、実質GDPのいろんな項目の増減なんですが、これを見ていただいたらお分かりのように、これは消費税の引き上げ前の駆け込み需要のときで、これが引き上げ後ですが、この赤いやつが個人消費です。ピンクが住宅投資ですね。青が設備投資で、緑が純輸出ですけれども、これを見たら分かるように、消費税引き上げ後、個人消費、住宅投資、マイナスがずっと続いていると。このときと比べたらマイナスですね、ずっと続いてて、ほぼそれと同じだけ輸出と設備投資で相殺されているという感じです。この輸出と設備投資の伸びというのは、基本的に金融緩和の効果で、政府支出自体はこの黄色ですけど、ほとんど増えていないということで、消費税増税によるこのマイナスと、こっちの金融緩和によるプラスが相殺されてきたというのが、さっきの横ばいと言ってた流れですね。それがここに来てこんな感じで、輸出がだいぶ伸びている。設備投資もだいぶ増えている。個人消費もだんだん回復に向かってきたかなという、そんな感じですね。
そんな中で、やっぱり安倍さんは勝負に出てきているという感じというか、脱却しようという感じで出てきてると。というのが、これは公共工事の受注額、前の年の同じ月と比べた増減ですけれども、去年の後半ぐらいから伸び率が高く、すごく伸びているということですね。この辺ちょっとマイナスだったんですけども去年からプラスになって、特に去年の年末ぐらいから伸びが大きくなっているという感じはあります。
やっぱり政府支出がこのかん頭打ちだったのが、景気が頭打ちだった原因であるということは、官邸のほうもちょっと認識しているというふうに思います。だから、こんな感じで勝負を懸けているという感じはありまして、その結果が、これは先ほど出たGDP速報のやつですが、固定資本形成、公共事業のやつですが、これが最新のやつです。これがポッと出た。伸びてる。GDPが出てきたという感じが現在ですと。その結果として、政府支出全体も伸びてますねと。最新のデータは伸びているし、4~6月期ですから、この4月から6月ですと伸びてると。それに合わせてGDPも伸びている感じがある。直近の状況ですが、設備投資がだいぶ伸びているんですね。だいぶ伸び始めていて、そんなこともあって全部加えると、さっきの最新のデータを一番右端に加えるとこんな感じになります。設備投資の伸びが大きくなっている。円安と輸出はだいぶ大きい感じで続いていて、政府支出も増えているということですね。それに合わせて、消費税増税後減っていた個人消費が、現在プラスになっている、前と比べてプラスになっているということで、だいぶ消費も復活になりつつある現状ということですね。
そんなことがありまして、例えばこれ、正社員の数が増えてるとかっていうことがありますが、これ15歳から24歳に限っても、こんな感じで増えだしているという話もあって、直近では景気はプラスに向かっているかなというところが大きいと。それで、こんな感じで、これは各社の支持率の平均を出している人がいるんですけれども、内閣支持率が復活に向かっているということですね。不支持が下がりつつあるということで、現状の状態は、この状態が続いていくと、安倍内閣の支持率が復活に向かっていって、景気がすごいいいときに解散をしてくるということで、改憲に王手を掛けてくると。そのときにはアベノミクスの成果を信任していただき、みたいなセリフで、「もう一回、民主党時代の不況に戻りたいんですか?」とか言って、改憲のカの字も言わずにマニフェストの隅のほうにこっそり書いておいて、それで圧勝を狙ってくるというような感じのところというのは、多分あるんじゃないかなと。
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井上:解散はいつぐらいになりますか?
松尾:私も政治の専門じゃないのでよく分からないんですけれども、10月に補選がありますが、一つの説としてはそれに合わせてくるという話もありますよね。本当に経済の話しか分からないので、経済の方が話して知っているデータだけで、情報だけで語りますが、この7月から9月期のGDP速報の結果が11月とか12月に出ますけども、7から9月期って関東とか雨が降ってて、すごく雨が長くて、例年に比べると消費がそのために落ちている可能性があって、数値としてぱっとしない数値が出てくる可能性はあるということなんで、その数字が出る前に解散するという可能性もあります。日本ファーストとかが立ち上がる前にですね。それを越えると、多分GDP統計の数字が出た期間というのは避けるんじゃないかなというふうなんで、その先のニュアンスとか、あるいは統一地方選挙と合わせるとか、そうなるという感じかなと。でも、感じとしては、今見たように公共投資とか増やしてるし、だいぶ景気というのは基本的に持ち直しの方向というのがあるので、引っ張れば引っ張るほど、経済的には安倍さんに有利という状況になっていくんじゃないかなというふうに見ています。
井上:そうすると、景気が良くなっていくのかという問いに関しては、良くなっていくということですね。
松尾:先ほどのお話にありましたように、消費税まではという。消費税までは。その消費税自体が、安倍さんの政治戦略というか、選挙に勝つためということであれば、もしかしたら延期とかいうことはあるかもしれないというふうに思いますけれども。
(2)起こりつつある「人手不足」と「人工知能」による雇用崩壊
井上:あとは、丸2番のお題とちょっと関係しているんですけども、今人手不足と言われている中で、景気対策をするというのは需要を増やしていくということになると思うんですが、人手不足なのに需要を増やして、果たして本当にGDPが増えるのかというところですね、少し私が経済学者でありながらも、何か不思議というか、結局増えちゃうんでしょうけども、何でなのかなというのがいまいちよく分からないところがあるんですが、どうお考えですか?
松尾:僕自身は、まだ本当の意味で人手不足というか、そういうふうにはなっていないと思っていて、日本の失業統計って井上先生もよくご存じの通り、だいぶいい加減なところがたくさんあって、少な目に出ているという、本当は失業者だけど失業者としてカウントされてない人たちがやっぱりいるということで、今までだったら労働力として扱われていなかった人たちが、景気が拡大することによって、何とか世に言う労働力として雇われていると。そういうことが現在あります。
井上:まだこれから労働市場に、今まで全然就職活動もしてなかった人が出ていくだろうということですね。
松尾:それはあると思います。しばらくの間はその余力があるんじゃないかなということで、まだ、従って、賃金の上昇圧力というのも十分掛かっていないし、だから消費を拡大して雇用を拡大するという余地は、まだしばらくはあるだろうというふうに私は思っていて。オリンピックの話、ちょっとさっきしかけましたけれども、オリンピック頃までは、頃になると、やっぱり人手不足の問題というのは、基本的には問題になってくるのかなと。そうすると、さすがにそうなると超過需要というか、インフレ、デフレよりはインフレの心配が出てくる時代に移っていくかなという感じは思っていて…
井上:オリンピック終了後に一気に景気が悪くなるという可能性もありますよね。
松尾:そういう可能性もありますね。その話なんですけれども、その前のオリンピックの準備段階でインフレ的になってくるという、そういう状態の中で、やっぱりインフレ目標が充てられているから、そこに抑えなければいけないと。でもオリンピックの需要数が基本的に首都圏で中心的に出てくるから、首都圏のほうでインフレになっているということがあると、それに合わせて引き締めというか金融緩和はお終いにしていきますと、お金はあまり出さないようにしますということに移っていくんじゃないかなと。でも、お金出さないんだけれども、でもやっぱりオリンピック特需もあるから、政府は国債発行してお願い、ということですね。そういうことで、日銀がお金出さなくなったのに、政府が一生懸命お金を民間から借りるということになると、資金不足ですので、金利が上がってくるということになるんじゃないかなと。そうすると、金利が高くなると設備投資とかしにくくなるし、日本でお金運用したほうが得だから、円を買おうという動きが強くなって、それで円高になって輸出ができなくなる。そうすると、首都圏は特需で沸いてるけど…
井上:地方は疲弊してしまうんじゃないかということですね。
松尾:そうそう。そういうふうにとっても心配してます。結局オリンピックが終わった後、地方の疲弊の問題が表にたくさん出てくるという状態になるんじゃないかなと、私自身はそんなふうに思ってるんですけども。僕は人工知能の話というのは全然専門ではないので、全然ピンとこないので、井上さんは前から人工知能で人手がむしろ余るという方向に向かうという話をよくされているんですけど、時間的感覚としてどんな感じかなという、ちょっと使われないというか、オリンピックぐらいまでは多分人手不足のほうが先に…
井上:私もそう思います。まだ人工知能による生産への影響というのが、真っ黒けでデータとして全く現れてなくて、それが現れるようになるのは私は2030年ぐらいになっちゃうかと思っています。もっとその前に、我々の生活の中に、もう既にいろんなところに人工知能というのは入り込んでいますけども、ただそれが生産性への影響を与えるようになるといったときに、第一次産業革命のときの蒸気機関とかもそうなんですけども、蒸気機関を導入するようになってから、それが生産性が上昇してくるという効果が現れるようになるまで、平気で10年15年とか、やっぱり掛かっちゃうわけですね。下手すると20年ぐらいか掛かっちゃうということなので、今AIブームですけども、まだ機は熟していないと捉えていただければいいかと思います。なので、長ければ本当に2030年近くまで人手不足が続いて、そこからふと気付くと人手が余っている時代に突入するかもしれないということなんですね。人手不足をちょうど補うぐらいに人工知能がうまい具合に発達してくれればいいんですけども、そんなにさじ加減も、技術の進歩いうのはかなり早いですから、人手不足を補ってくれてるなと思ったら、もうあっという間に人工知能に仕事をどんどん奪われているぞということになってしまうのが一つ。
あともう一つは、これから業界によって人手が余る業界と、人手不足の業界とまだら模様になるというふうに考えていただければいいかと思います。今、特に建設とか介護とか、あと飲食店とか、特に人手不足が著しい業界・業種は、なかなかAIが導入されません。というのは、AIだけじゃなくてロボットも導入されないと、建設とかできないじゃないですか、介護とかっていうのは。なんですけども、AI開発して、それからロボットも開発してと2段階必要なんで、かなり時間が掛かるんですね。それに対して、事務職とかあるいは業界でいうと銀行業とか金融関係なんですけども、こういったところって、そもそも情報を扱っている、しかも主に扱っているのは数値なんで、そもそも数値の処理ってコンピューターは得意ということなんで、やっぱり一番、あとでお話しする技術的失業という、新しい技術がもたらす失業というのが一番早く大きく現れるのは、私はおそらく銀行業だと思っております。なので、そういう業界は人手が余っちゃう。
松尾:経済学者はどうですか、数字は。余る?
井上:経済学者は結構危ういと思いますね。
聴衆:(笑)
井上:経済学者でも、実は理論的なこととか、あるいは松尾先生みたいにマルクス経済学の理論的な話をしている人とか、こういう人は逆に残ると。
松尾:そうなんですか。
井上:データの分析とかしている人は、それはもうAIにやらせたほうがいいという話になっちゃうと思うんですね。
松尾:最近全然研究する暇がないので、やってくる話だとか仕事というのはデータを解析する仕事ばっかりなんですけど。
井上:それはちょっと危ういですね。
聴衆:(笑)
(3)ブラック企業のなくし方
松尾:「ブラック企業のなくし方」というお題が出てるんですけど、最近ぼちぼち人手不足みたいな感じのところが進んでいて、ブラック企業、人が来なくなってきて、だいぶ音を上げているというのがありますけども、やっぱり基本的には第一には、そうやって景気が良くなってくるということ、逆に言うと景気が悪くて、いっぱい人手が余ってて失業者いっぱいいますよという、そういう状態だから、企業側が言うことを聞かせようと思ったら、お前なんかの代わりはいくらでもいる、ということを効かせられるから、ブラック企業がすごい蔓延ってきたということはあったと思うんですけれども、一つは景気が良くなるだけで、(ブラック企業が)なくなりますかというと、厳しいことはいろいろあるかもしれないので、とりあえずなくしていくということに関しては、景気が良くなっていったらなくせる条件っていうか、有利になっていくという、そういうふうな気はするんですけれども、井上さんはどうお考えになりますか。
井上:おっしゃるように、労働市場において、労働者のほうが売り手市場になるということがまず第一だと思うんですが、ただ根本的な問題を見ますと、日本の企業がほとんどもうブラックじゃないかと思うんですね、私。それは日本政府自体が企業に甘いということがあって、それも若干最近、方針転換に向かってきて、働き方改革とか最近言われていまして、少し良くなってきているとは思うんですが、そもそもサービス残業という言葉自体が私良くないと思ってまして、あれは違法残業とか奴隷残業と呼ぶべきであって、あまりサービスなんていう美しい言葉で語ってはいけないんじゃないかというようなことも思ってますけどね。
松尾:そうですね。一つ、ブラック企業をなくすというので、やっぱり企業にしがみついていかないと、やっぱり食っていくためには、どんなひどいところでもしがみついていかないといけないというのがあると思うので、別に雇われなくても、とりあえず食べていけますよという条件があれば、かなりそれをなくすためにプラスになるんじゃないかという話もあるんですよね。
井上:そこでベーシックインカムですか、ありがとうございます。
聴衆:(笑)
井上:ベーシックインカムは、だいたい皆さんご存じかと思うんですが、念のためお話ししますと、日本語では基本所得というふうに訳されたりしますが、国民全員に最低限必要な生活費を政府が給付しようという制度なんですが、月に最低7万はないと生活できませんというと、1家族じゃなくて、個人一人一人7万円ずつ配るんで、4人家族だったら28万円になるという計算ですけども、そんなようなお金を国民全員に配るという社会保障制度で、生活保護なんかよりも私はいいと思っているんで、今すぐにでもベーシックインカムを導入したほうがいいと思っていますけども、ベーシックインカムがあったら当面それで食べていけるんで、嫌な会社だったら辞めちゃえばいいということになるんで、そうすると会社のほうも労働者を大事にせざるを得ないんじゃないかということですよね。
松尾:ブラック企業の話はこれぐらいにしますか。
井上:あ、もうポンポン行きますね。
松尾:ポンポン行きますね。
井上:もう終わっちゃうんじゃないですかね。
聴衆:(笑)
(4)経済政策はなぜ重要なのか?
松尾:経済政策はなぜ重要なのかと、これはさんざん僕、あちこちで言っている感じがありますので、井上さんどうぞ。
井上:まず経済政策で一番大事なことは、失業を減らすことだと思います。すみません、当たり前の答えで申し訳ないですが。GDPを増やすこと自体よりも失業を減らすことが大事で、失業って、ある調査では離婚よりも精神的なストレスが大きいというふうにされていますので、精神的に喰らうストレスとしては、この世の中で一番大きなものの一つということになりますので、それで人を死に追いやってしまうということもありまして、やっぱり失業者が増える、景気が悪くなって失業者が増えると自殺率も増えるというので、政府は経済政策としては失業を減らすことを、まず第一の目標に掲げるべきであるということなんですが、その上で、今は豊かな人はいいんですけども、まだ貧しい人はいっぱいいますので、さっきもランチ食べながら話してたんですけども、脱成長論というのもちょっと流行っていて、皆さんの中にも脱成長論の方もいらっしゃるかと思うんですが、もし例えば成長すると環境に良くないということがあるかと思うんですが、では環境にいい形で成長ができるんだったら賛成してくださいますか、というお話なんですね。
成長がよろしくない理由って、いくつも、環境以外にも挙がると思うんですが、それらを全部解決する形でなお成長するんだったらいいんじゃないかということと、あと、そういうお金持ちの人はいいんですが、貧しい人がもし成長できないんだったら貧しいままかということになってしまって、昼御飯とか晩御飯に500円の牛丼を食べるのもきついという人も、いっぱい世の中にはやっぱりいるわけですよね。それこそ300円ぐらいで毎回食事を済ませるという人もいますので、ちょっとそういう人たちのことも考えてほしいなと思っていて。多分、脱成長論を唱えていらっしゃる方は、自分が裕福な方が多いのかなという気がしておりますけれども、その点ちょっと毒舌を交えながらお話しいただけるといいのかなと思うんですが。
松尾:私は毒舌は得意ではないので、他の人にお任せしているところがあるんですけど、なかなか経済成長ということには、やっぱりアレルギーのある人が多いんですけれども、ちょっと概念的に区別したほうがいいのかなという、ときどき私も講演とかで強調したりはすることですけれども、景気が悪い状態で人手がたくさん余ってますと、失業者がたくさん出ているというような状態から、失業者を雇っていって経済が拡大していくというような話。この話と、全部雇いました、雇い尽くしてしまっていますというときに、経済の生産能力が増えていきますという、こういう成長と2種類あると思うんですけれども、なかなかこれが混同されている場合が多いというふうに思っています。
経済成長は必要じゃないんじゃないですかとか、もう成長の時代じゃないですよというようなことをおっしゃる方というのは、合理的な話として頭の中におありなのは、例えば資源の制約の問題とか、あるいは少子化、高齢化していって労働力が少なくなっていますから、もう成長しませんよという話だと思うんですけども、それは生産能力の話ですね。もう全部雇ってしまって、少子化して労働力が足りないという状態で、もうこれ労働力増えないから生産は増えないんじゃないですかという問題なんですね。そういう話というのは、いわゆる長期の話というふうに言われます。どんなに景気が良くなったとしても、そこから上は天井に達してしまって行けませんから、もう一度長い目で見たら天井に制約されて経済は動いていきますということですので、そういう長い目で見てという意味で、長期と言われたりしますけれども、この長期の成長の話としてもう成長限界ですというのは、それはそうかもしれないというところは確かにある。ただ今後生産性が上がっていくとこれも上がっていきますので、それはどうなのかなというのは、AIの専門家からゆっくり話を聞きたいと思うんですけれども、とりあえず当面、さっきの話では2020年ぐらいまでは人手不足というような話だったとすると、労働の制約ということで2020年ぐらいまでは天井は成長しませんよという、これはそうかなと。
その話と、世の中のものを買う力が不足していて、それで財とかサービスとかが買われれてませんということですね。そのために生産も低い水準で生産されています、失業者がたくさん出てますという、そういう状態から失業者を雇っていって、だんだん失業者を減らしていきますと。そのために財とかサービスの生産が増えていきますという、こういう成長の話というのはまた別の話で、それは別に資源とかの制約にまだ達していないという、その中での起こっていく話だし、例えば介護者の賃金が増えるとか、保育士の賃金が増えるとか、あるいは介護サービスが増えていきますとか、そんなことでも起こっていく話ですね。煙突にょきにょき工場が建って、資源をいっぱい使ってという、そういう話とは必ずしもイコールではないということですね。なかなかやっぱりお金がどんどん儲かってというような、お金が儲かることはいいことだと思うけど、ちょっと汚いイメージみたいなのをお持ちの方もいるかもしれないけども、そういうこととイコールではなくて、福祉とかどんどんサービスが増えていくというのも、この中の成長の一つだというふうに理解していただきたいなということなんで、ついでですので、さくさく進んでいるみたいだからちょっと時間を取って。すみません。
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◆松尾教授解説
先ほど井上さんがおっしゃった、失業の話ですが、やっぱり失業をなくすということが一番大事というか、何のために経済政策をとるかということと、非常に中心的なことだと思ってるんですけどね。これ何度も私の本にも書いてあるし、よくお見せしてる話なんですが、これは男性なんですが、男性の自殺死亡率と男性の失業率のグラフがあるんですね。1953年から現在まで取っている、非常に長期にわたるグラフなんですが、見たらお分かりの通りきれいに形が合ってる。本当にきれいに形が合っていて、自殺というのは、やっぱり男性の場合特にそうなんですけれども、失業率が増えると自殺率が増えるという明確が関係があると。特にこれ50代に限ってみると、もっときれいに相関が出ますということなんですね。
ちなみに言うと、女性の場合は相関が出ないので、よく女はしぶといとかそんな悪口みたいな話があったりするんですが、実はこれをよく見てみると、女性の場合自殺する理由の中にうつ病というのがあって、それは病気による原因、病気が原因による自殺ということの中に分類されるわけです。ところが、うつ病というのになった原因というのを探すと、実は失業でうつ病になりましたというのがあって、そういううつ病というのを間に挟んだ連関を調べてみると、実は女性の場合も失業で自殺しているというのが結構あるということが分かっています。
これ、さっきのグラフですが、高齢化していくと自殺率ってどんどんどんどん増えていくんですわ。だから高齢化に伴うトレンドというのがあるというのと、このかんの長い期間を取ったら、失業率も高度成長時代と比べると、低成長時代というのは失業率が高くなっているということなので、そのトレンドを除くっていう作業をするんですね。トレンドを除いて頂点のほうの変動だけを取り出して両者を比べると、こんな感じになって、ますます相関がすごい大きくなるということなんですね。これは回帰分析もしてるんですけど、とっても優秀な回帰分析ということで、先ほどの井上さんのお話に出た、自殺が増えますよというそういういう話、こんな感じですという話です。
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松尾:こんなことばかりやらされてるからAIで仕事がなくなるという話になるんですけれども、そういうことで、第一の目的は雇用を増やすことですよということなんです。だから、景気対策を取って、経済を拡大させていくということは、まず必要なことですよ。どこのところに力を入れてそれを拡大させていくかというのは、政治の選択の話になってくるかもしれないけれども、ともかく失業者をなくすというのは第一の前提として必要なことだというふうに思いますね。
井上:あと、経済成長に関して一つ混同されることがよくあるなと思っているんですが、高度経済成長期のような経済成長が可能なわけないだろうという言い方で、脱成長論の人たちは言うわけなんですが、それを可能だと言っている経済学者ってほとんどいなくて、私ぐらいなんですけども。それは人工知能によって可能だという話を、後で時間があればしたいと思うんですが、ほとんどの経済学者は別にそんなことは言ってなくて、日本はこの20年間で0.9%ぐらいしか実質成長率がなくて、アメリカは2%なんですよね。0.9%と2%ってちょっとの差に見えるかもしれませんが、これが10年、20年たつと所得がアメリカのほうが倍ぐらいになっちゃったりするわけですね。なので、このちょっとの差を埋めることが非常に大事であると思ってまして、せめてアメリカの2%ぐらいは経済政策によって、そのぐらいの成長率は保っていくというのは、別に無理をしているわけでもなくて、自然にできてしまうはずのことなんで、それすらもできなかったこの日本の20年間というのは、やっぱりこれは経済政策の失敗だろうと私なんかは思っていて、何も10%を超えるような成長率を狙っているわけではないというところを、ご注意いただければと思っております。
松尾:今、高度成長ぐらいになると言っているのは自分ぐらいだろうというお話がありましたけれども、AIでそれくらいいけるというふうにお考えで?
井上:それ行きます? じゃあ行きましょうか。
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◆井上准教授解説
まず、人工知能には2種類あるという話なんですが、今ある人工知能というのは特化型人工知能、特化型AIと呼ばれていて、チェスAIならチェスしかできないし、将棋のAIなら将棋しかできないというふうに、一つ、あるいは二つぐらいの目的に特化しているということなんですけども、それに対して、人間というのは汎用的な知性を持っていて、一人の人間が潜在的にはチェスもできれば将棋もできるし、事務作業もできれば、人と会話もできるというふうな汎用的な知性を持っている。そういった汎用的な知性を持っている人間と同じように振る舞えるような人工知能、これが汎用人工知能ということになるんですが、そういうものがどうやら2030年ぐらいには登場するらしいということなんですね。
この辺に、2030年ぐらいには汎用人工知能ができちゃうということなんですが、もしこれが登場しちゃったら人間と同じように振る舞えるんで、この人たち、この汎用AI、あるいは汎用AIを組み込んだロボット、汎用ロボットに働いてもらえばいいじゃないかという話になってきちゃうんですね。価格の問題はあります。人間の賃金と、この汎用AIの使用料とどっちが高いか低いかという問題はあるんですが、もし汎用AIのほうが低いんだったら汎用AIを雇って、人間はもう雇う必要がありませんということになるわけですけども、そうすると経済構造がガラッと変わりますという話なんですが、それで汎用AIの時代になったときに、今の私、資本主義を機械化経済と呼んでいて、次に訪れるこの汎用AIの時代にやってくる経済を、純粋機械化経済というふうに呼んでいます。これら二つ、経済構造が全く違いますという話なんですが、これが今の資本主義です。
これが基本的な構造としては、機械と労働、二つインプットがありますと。機械は経済学の用語では資本とも呼ばれていますが、二つインプットがあるということが重要です。こういう経済を数理モデルにして、それで分析した結果をお示ししますと、先進国では2%前後の成長率しか得られないという、さっき言ったお話ですね、アメリカが典型例ですけども、こんなふうな成長率の推移になるということですね。ただ、キャッチアップの時代では、あるいは発展途上国では10%を超えるような成長率も可能ですということなんですが、これ経済構造が変わらない限り、もう永遠にこのままですということですね。日本に高度経済成長期がやってくることもないし、中国・インドもいずれこんな成長率に落ち着くはずですということですね。これが今の資本主義の行きつく先ですということですね。
この成長率の原動力って、基本的には技術進歩です。技術が一応進歩するんで、2%ぐらいの成長率は得られますということなんですが、じゃあ高度経済成長期をもう一度という夢を抱いたところで叶わないと皆さん思うかもしれませんが、これが叶う理由が、さっき機械と労働と二つインプットがあったのが、労働がなくなってます、労働者必要ありませんと、汎用AI、それからロボットを含む機械がオートマチックに全部ものをつくってしまいますということですね。これを純粋機械化経済というふうに呼んでいます。これが2030年以降こういう経済に、一気にはなりませんが、徐々に移り変わっていくだろうというふうに思っています。今でも山梨にあるファナックさんって、ロボットをつくっている会社ありますけども、そこの会社の工場に行くとロボットがロボットをつくっていて、もう全然人がいなくて無人工場ですというような光景が見られるわけですけども、それが全産業に行き渡ったような状態というふうに思っていただければいいかと思うんですが、ただ、人間の役割が全くなくなるわけではなくて、汎用人工知能が生産活動を行ってくれるとはいえ、新しい技術を研究開発するとか、新しい商品を企画するとか、生産活動全体をマネージメントするというところで、まだ人が必要だというふうには私は思っているんですが、ただ直接的に機械がものをつくってしまうというところが重要です。間接的に人がこれ、いてもいいですけども。
もしこういう経済構造になるとするんであれば、これも数理モデルをつくって分析すると、結果、技術進歩率が例え一定であったとしても、経済成長率が毎年どんどん上昇するという、恐るべき経済と転換すると、今年2%ぐらいの成長率だったら、来年には3%、再来年には5%、その次の年には8%というような感じで、どんどん成長率がうなぎ上りに昇っていく。この辺までいくと成長率30%とかに達してるかもしれない。高度経済成長期どころの話ではないということなんですが、皆さんこれびっくりするかもしれませんけども、そんなこと起きるわけがないと思うかも分かりませんが、これ計算は全部合ってるんですね。こうなるという前提が満たされれば、こういう成長が可能です。ただ、さっき資源制約の話とか出ていましたが、資源制約と需要制約については、これは考えていません。なので、もしこういう経済構造になっても私が言う通りにならなかったとしたら、それは資源制約か需要制約のどっちかに突き当たっているからだというふうに考えてもらえればいいと思います。なので、お前の言った通りにならないじゃないかというふうにいじめないでいただきたいということですね。
ちょっと付け加えて言いますと、もし汎用AIなどを導入して、生産の高度なオートメーション化を進めた国とそうでない国があったら、こういう二つに分岐してしまうだろうということなんですが、これは私は第二の大分岐というふうに呼んでいます。日本はこっちに行きたいですか、こっちに行きたいですかという話ですが、私だったらどっちかというとこっちに行きたいという派ですね。この辺もまた意見が分かれるかと思うんですが、技術的に失業とか怖いんで、あんまりAIとか導入しないようにしましょうというと、こっちの停滞路線に行ってしまうということですね。ではこれ、なぜ第二のと呼ぶかという話なんですが、昔最初の大分岐があったわけですね。1800年ごろ第一次産業革命が起きて、蒸気機関などの機械を生産の現場に導入して生産の機械化を進めた欧米諸国、イギリスをはじめとする欧米諸国はこっちの上昇路線に行きました。日本を除くアジア・アフリカ諸国はこっちの停滞路線に行ってしまいましたと。日本はちょっと遅れてからこっちの上昇路線のほうに行けましたということなんですが、こういう分岐がもう既に起きているわけなんですね。こういう過去に起きた分岐と似たような分岐が、未来においてもやってくるということなんですが、ちょっと1点だけ、これ縦軸が1人あたり所得になっていますが、未来に起こるのは、これも1人あたりなんですが、成長率なんでちょっと縦軸が違うということに注意してください。構図は一緒なんですが、縦軸が違ったものがまた未来において、同じような分岐がやってくるということですね。
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井上:松尾先生から、何か、これおかしいじゃねえかみたいなのがあったら。
松尾:結局これは機械が機械をつくるということで、機械の自己成長率みたいなものという、そんなイメージですか?
井上:まぁそうですね。機械が生産活動を行って、消費財もつくるんですが、投資財もつくる。投資財って具体的に何かといったら機械なんで、機械が機械をつくるという、こういうループがあるんで、もうバンバン成長できちゃうという話ですね。
聴衆:そこはそういう需要制約の知識…
井上:そうですね。ここで消費需要がやっぱり追いついていけばいいわけですけども、もしここで消費需要がないとすると、消費財をつくる必要がありませんと、消費財をつくる必要がないんだったら、投資財ばっかりつくったってしょうがないですから、ここが最終的な出口なんで、ここの消費需要というものが追いついていかないと、最終的には需要制約に掛かって一個も成長できませんということになってくるんで。
聴衆:もうちょっと資源制約の問題を分かりやすく、そのルールを回すとね、使われるべきルールですよね。
井上:そうですね、ここのインプットが、経済学って実は資源について常に考えない学問なんですけども、機械と労働以外に、土地は必要なんですがあまり、そんなには重要ではないと思うんですが、資源はそこそこ重要かなということで、資源もやっぱりインプットとしてあって、資源をインプットとしないと、本当は生産活動ってできないわけですけども、そこの資源の部分の制約に引っ掛かる可能性はあると思ってるんですが、資源は私は結構楽観的に見ています。大事にしなきゃいけないのは間違いないですし、私は資源税とていうものを、もっと税金を掛けていくべきだとは思っているんですが、ただ皆さんの思うほど資源というのは、1970年代ぐらいからローマクラブでしたっけ、成長の限界とかって言われていたのは、資源が結局枯渇するから成長できませんということが、1970年代から言われてきたのが、資源枯渇するする詐欺と私は呼んでるんですが、なかなか枯渇しませんということで、これはなぜかと言いますと、技術が進歩するとかなり地中の深いところまで資源を採掘することができるようになって、最近シェールガスとかシェールオイルとか言われていますが、そういう資源がどんどんどんどん発掘するのが容易になってきて、低いコストでかなり深いところまで採ってこれるという。日本は実は資源大国で、海の中にはいっぱい資源を持っている国なんですけども、いずれはそういうものが採掘できるようになるということと、あと太陽光発電がかなりコストが順調に下がってきているということがありまして、もう10年20年先には石炭・石油の半分ぐらいのコストになるだろうということなんですけども、そうすると天候とか、あと夜間に発電できないという問題がありますので、電気を蓄積できるかどうかというのが大きな問題で、蓄電池がどれだけ発達するかどうかというところにちょっと懸かってはいるんですが、蓄電池の問題さえ解決できれば、そんなにエネルギーに困ることはなくなるのかなとは思っているんですが、ただ、資源を使うことによって環境破壊とかもありますので、なるべく資源を大事に使いつつ環境保全も図って、かつ経済成長しましょうということなんですが、この経済成長の部分はさっき松尾先生もおっしゃったように、何も、ものをつくるだけがGDPを増やすわけではないんですね。福祉的なサービスとか、いろんな資源を使わないようなサービスを増やすことというのも、別に経済成長に貢献しますので、そういうところを重視していけばいいのかなと思います。
松尾:私は井上先生ほどAIとかのことは詳しくないのであれなんですが、僕の素人目から見ても、人の利用の効率化をしていくということと比べると、エネルギーの利用の効率化をさせる技術を進歩させていくほうがよっぽど楽そうな気がするので、これぐらい人の利用の効率化が進んでいく技術進歩が起こるんだったら、もっとエネルギー利用の効率化が進む進歩が起こってくるだろうなぁと思いますので。
井上:そういう意味で言うと、AIを使って電気を効率良く発電して送電するという技術というのも今進んでいますので、人手が要らなくなるよりも先に、エネルギーの効率的な利用ができるようになるというふうに思ってますんで、松尾先生のおっしゃる通りだと思います。
松尾:やっぱり何が制約になるかというと、事業制約のほうが一番大きい…
井上:私もそれは一番大きいと思ってます。
松尾:放っといたら技術的に失業ということもあるんですけれども、多分密接にそれは関連すると思うんです。それが需要不足失業です。だからちょっとした需要不足失業が技術的失業をものすごく倍加させるというか、そんな感じのイメージはしますよね。
井上:そういう意味で言うと、汎用人工知能をはじめとするAI、ロボットが発達しますと、その人たちが、仕事を奪ってしまうので、多くの労働者が失業してしまうという可能性があるんですが、そうした場合に多くの労働者は、買いたいものがあるのに所得がなくて買えない。一方でAIとかロボットとか、あるいはロボットが働く無人工場を所有する、資本家と言っていいと思うんですが、資本家の人たちはお金いっぱい儲かってるわけですけども、労働者に賃金払わなくていいわけですから、資本分配率100%みたいな世界ですね、極端に言いますと。そこまでは行かないと思いますけども、丸々自分たちの儲けになってしまうと。その人たちはお金がいっぱいあるんだけども、ほぼ買いたいものがもう飽和してるからあまりお金使わないということになってしまって、どっちにしろそこで消費需要が止まってしまうということがありますので、これを放っておくと、さっきこうなると言いましたが、こうならなくてむしろシュリンクしていって、これ2%辺りで止まっていますけれども、これ0%以下になっちゃう可能性だってあるということですね。労働者が消費をしなくなる分、需要制約によって経済全体がシュリンクしていってしまうという可能性もあるんで、一つにはベーシックインカムのような大規模な再分配政策が必要だというのが一つ。それからもう一つは、潜在的な成長率が上昇していくのに伴って、世の中全体のお金の量も増やしていかないといけないということなんですが、この二つが重要で、ちょっと最近考えた例え話で言うと、熱いお湯が張ってあって、ちょっと水で薄めるって話なんですが、水を薄めて水の量自体を増やすことがヘリコプターマネーだと思っていただいていいと思うんですが、そこでちょっとかき混ぜるという作業がベーシックインカムのような再分配制度ということになりますけども、その両方が必要で、お金の量も増やす、そして再分配も行うという、この二つですね。
(5)日本の借金が危ない!は本当か?
松尾:なかなか佳境に入ってきたという感じですけども、だからますますこういう状態になると、再分配とかが重要になってくるんで、それがないととても地獄のような社会というのが、何か天国のような社会と地獄のような社会、どっちにもなれるという話で、再分配が重要になってくるという話なんですけども、やはりそうすると日本の借金今はものすごく膨らんでいるじゃないかという、そういう問題を言われると思うんですけど、この再分配とかって言っても、そんなできるのかという話だと思いますけど、どうですか、この話題。
井上:そうですね、全く私は日本の借金に関しては心配していません。というのは、そもそも政府の借金が1000万(1000兆)以上あるという話なんですけども、一つは政府も資産を持っているということで、その差し引きを考えろという話なんですが、私がより重視しているのは、政府の借金の証書である国債ですね、国債を日銀が買い取っているという話なんですが、このグラフですね。政府債務残高が順調に増えていってますということですね。それから、日銀保有の国債の残高がここからうなぎ上りに増えていって、今400兆を超えているところなんですけども、この調子でいくといずれこの借金が、赤と緑のグラフが交差する所でゼロになるということもありますし、今政府が資産を持っていて債務があって、その差し引きが資産のほうが600兆ぐらいですかね、ざっくり言って。私細かい数字よく覚えられないんで。
松尾:それぐらいかと。
井上:そうですよね。そうすると、すごい大雑把に言うと、1000兆から600兆を引くと純債務が400兆になるんですが、ちょうどこれ今400兆以上になっているということは、日本の借金、今ゼロになっているということなんですね。
松尾:そうですね。
井上:なので、我々は借金ないというふうに思っていただければいいかと思います。何人もの人が今首をかしげていますが。そんなバカなというふうに思う人も多いと思いますし、政府が借金をして、その借金を日銀のほうに付け替えただけで、これは借金なくなったことにならないじゃないか、ということを思う人もいると思うんですが、政府が日銀に借金をしているという状態ですよね。要するに国債を、皆さん個人とか企業が持っているんじゃなくて、国債を日銀が持っているという状態は、結局政府が日銀に対して借金をしていることになるわけですけども、そもそも日銀と政府って一緒の法人じゃないかという話なんですよね。一つの家庭の中でお父さんがお母さんに借金しているものというふうに見てもらえればいいかと思うんですが、お父さんとお母さんの合意があれば、じゃあチャラにしようねということができるわけですね。なので、別に一つの家庭というふうに見なしたときに問題ないじゃないかということなんですが、これは普通にマクロ経済学の中では統合政府という言い方がありまして、政府と中央銀行を統合して考えるという考え方、これは常に出てくるんですね。ただ、この統合政府という考え方はマクロ経済学者の一部しかなじみがなくて、広く国民にはあまり知られていなくて、昔、高橋洋一先生とかが、TV(ティーヴィー)タックルって関西でもやってます?
松尾:はい?
井上:TV(ティーヴィー)タックルっていう番組。やってないですか?
松尾:TV(テレビ)タックルですね。
井上:TV(テレビ)タックル。やってます?
松尾:やってます。
井上:(松尾先生は)テレビ見ないですね、すみません。高橋洋一先生とかがテレビでもちょこっと言ってましたけども、あまりそこはやっぱりクローズアップされず、国民の皆さんに知られていないことだと思うんですが、一度テレビの討論番組でもこういうところを、すごく重要なところなんで議論したほうがいいかなぁと思ってますけども、どうですかね。
松尾:そうですね。同じお話を私もいくつか講演の中でさせていただいたこともあるんですけれども、昔、金本位制の時代に、お金出すのというのは、金があって金を渡しますよという形でお金出してるっていう。だからお金は裏に中央銀行が金を持っててということで裏付けられているという話がありましたけど、それと同じような話で、今、現在お金出すって、金本位制じゃないですけど、中央銀行がお金出すのはどうやって出しているかというと、何かの資産を買ってお金を出しているんですね。だいたいは国債ですので、国債ということにしておきますと、世の中にお金が出回っているということは、その分中央銀行が国債を持っているということなんです。だから、中央銀行の中に、金庫の中に国債が入っているということによって、その分お金が出ているということですね。だから、この中央銀行の金庫の中にある国債を返すという、政府がその国債分の借金を返しますよと、日銀に返しますということになると、どうなるかというと、それは日銀に政府が払ったお金までそのまま日銀に吸収されてなくなると。その分日銀の金庫の中の国債が減りますよということで、世の中に、ある規模の経済が回っていくということのためには、そのためのお金が回ってないといけないですが、それだけのお金が回っているということは、その分に対応した国債が、日銀の金庫の中に入ってないといかんということになるわけですね。だから、それは無理にお金を返しましたということで、日銀の金庫の中の国債が減ったら、その分世の中に回っていないお金が減るということなので、それは困難が生じるわけですね。まぁ言うたら、金本位制時代に政府が日銀から金を買い取って、その金を日本海溝に捨てるのと同じようなことなんですね。だからそれと同じことになるんで、ずーっとその分の世の中に回っていかないお金の分の、それと見合った国債というのは常に日銀の金庫の中に入り続けていかなければいけないんです。だから、日銀の金庫の中の国債というのは、期限が来たら借り換えをするんですね。そして期限を延ばすと。まだ期限が来たらその期限を延ばすということで、延々と返さないということをやってるんです。これは別にごまかしでやってるわけじゃなくて、そもそもそういうものということなんですよ。だから、基本的にその分の国債というのは、この世に出てこない、返さなくていいということなんですね。だから、返さなければいけない分というのは、将来インフレになって、そのインフレを抑えるために国債を売って民間から資金を吸収すると。その分は民間に表れていくので、期限が来たら返さなければいかんということになるかもしれないけれども、インフレを抑えるために売らないといけない分というのは、日銀が持っている膨大な負債の中でいうと一部の割合ですから、そんなすごい割合じゃないですね。それ以外というのは、延々日銀の金庫の中にあり続けるということなんで、実はこの世の中にないのと同じということですね。それはさっきの言い方で言うと、統合政府で見ると消えていますという、そういう話です。だから、一般に考えられるほど日本の借金の問題というのは、大きい問題ではないということですね。
井上:あと、今おっしゃったこととすごく重なっていくんですけども、政府の借金はいいことなのか悪いことなのかという話なんですけども、そもそもはやっぱりいいことというか、必要なことなんですよね。政府が借金しなくなるともう日本経済は崩壊しますという話なんですが、そもそもが政府が国債を発行したときに、ちょっとここ政府と書いてないんで申し訳ないですが、民間銀行にだいたい買ってもらいますということが多いわけですけども、民間銀行に政府が国債を買わせて、中央銀行、日銀が民間銀行から国債を買い取って、その対価として発行したお金を供給する。これが買いオペレーション(買いオペ)と呼ばれているものなんですが、この買いオペによって世の中のお金というのは出回っていくということになるんですけども、もし政府が国債を発行しなくなって、中央銀行が国債を買い取りませんと言うと、他の資産を買えばいいっちゃいいんですけども、基本的には国債を買っていることが多いので、その対価としてのお金っていうものを支払うということが、もし国債を買わなくなったらなくなってしまいますんで、お金が世の中に出回っていかなくなるということが一つ。
それから、お金というのは中央銀行の債務であるという考え方があります。皆さん持っているお札というのは、福沢諭吉とか書いてあるお札は日本銀行券と呼ばれているんですが、それは日本銀行の借金の証書のようなものとして形式上は見なされます。これちょっと不思議な話だと思うんですが、これ形式上は借金であるということなんですが、債務であるということなんですが、これは実質的には借金と見なすべきではないというのが、私の考えなんですね。なぜかと言いますと、もしお札というのは日本銀行の借金だから、それは借金をなくすべきだという考え方に人々が走ってしまって、日本銀行とか政府が借金をなくすべきだというふうに考えてしまった場合に、世の中からお金が消滅するということなんですね。そうしたら市場経済は成り立たなくなって、日本でも何万人の人が飢えて亡くなるかも分からないという話なんですね。だから、さっき言った二つの考え方からして、政府とか中央銀行の形式上の債務というもの、借金というものをなくそうという考え方がいかに危険かというお話なんですね。これはもう核兵器並みに危険だと思っていただいたらいいかと思います。
聴衆:借金って言葉が良くないんじゃないでしょうか。
井上:そうですね。そもそも貿易赤字がいいのか悪いのかって話もありますが、別に貿易赤字だから何?って話で、So What?っていう話ですよね。だから何?っていうことですね。政府の借金もそうです。これもSo What?の世界で、借金があるからどうっていうことなんですよね。ただ、かなり金利が高くて、政府の借金が雪だるま式に増えていくような状況はちょっと危険というか、その分国民が税金で金利分を払っていかなきゃいけないんで、その金利を得ているほうの経済主体、それは銀行かもしれないし、資産家かもしれませんが、そっちのほうに所得の分配がなされてしまうということですね、自然と。労働者のほうが汗水たらしたお金が資産家の金利のほうに消えていくということになりますので、国民全体で見ればプラマイゼロなんですが、これを労働者と資産家と分けたときには、やっぱり金利負担というのを労働者がするというのは、何かおかしいということになってしまいますんで、その点も含めて実は、今のちょっと貨幣制度っていうのはおかしいっていう話を、また後でするかと思うんですが、金利が低いときにはちょっと気を付けないといけませんが、今のようにですね…
松尾:金利が高いときですね。
井上:あぁごめんなさい、高いときは気を付けないといけませんが、金利が今のようにほぼゼロという状況では、その辺も気にする必要はありませんので、借金は何も悪くはないという意味ですね。しかもいろいろと実質的なものを考えてみると、結局今ゼロになっているという状況なんですよね。
(6)財源の作り方、教えます(マネークリエーションとヘリコプターマネー)
松尾:こんな感じで、何分までしゃべればいいですか? 3時45分、まだだいぶありますね。安心しました。では安心して、もうちょっと補足をいたしますけれども、なぜか日本ではどちらかというと左派系の人というか、そういう人たちが日本政府の借金が膨らんでいるといけません、みたいな感じで批判しているというところがありますけれども、世界的に見るとちょっとおかしいですねという話なんですね。
井上:そうですね。日本の左翼の人たちがどういう左翼かということによると思うんですが、私は最近プチブル文化左翼と呼んでいるんですが、プチブルというのはプチブルジョアジーの略ですけども、ちょっとインテリな小金持ちみたいな感じの人たちですね。そういう人たちは、まず文化が大好きなんですね。文化が大好きで、資本主義とかお金儲けの世界は汚いと思っているんですが、でもお金自体は自分自身は結構裕福であったりして、それで高級車を乗り回してたり、フレンチ食ったり、うな重食べたりするわけですけども。
聴衆:(笑)
井上:それで資本主義はけしからん、経済成長はけしからんということを言っている人が、別に皆さん、ある特定の人を思い浮かべてるか分かりませんが、いっぱいいるんですよ、こういう人たちは。こういう人たちはいっぱいいて、本当に貧しい人のことを考えたら、別にいいんですよ、うな重食べてもいいんですが、やっぱり経済成長していかないと貧しい人が貧しいままで、いつまでたってもうな重が食べられないわけですね。それを食べるようにするには技術進歩も必要だし、もし技術進歩が労働者の失業を生んでしまったり、労働者を貧しくしてしまうんであれば、技術進歩して経済成長したものを糧にして、それを財源に再分配をどんどん行わないといけないし、いずれにしても経済成長していかないと、貧しい人がいつまでたっても豊かになれないという部分がありますので、やっぱり私は経済成長が必要かなと思っているのですが、でもやっぱり、ここまであまり考えないというか、そこが重要ではなく、やっぱり資本主義けしからんという話が、どっちかと言うと先立ってしまっているのかなと思っているのですが、マルクスだって別に資本主義をそんなに否定したわけじゃないんですね。資本主義の行きつく先の極限に共産主義があると言ったわけであって、経済成長けしからんということは、マルクスは多分一言も言ってませんよね。
松尾:そうですね。生産力の発展をさせるのに資本主義が邪魔になってきたから、漆黒と化したから、それを取り外したら、社会主義になったら、近しいという言葉じゃなかったけど、共産社会になったんですね。生産力の発展がますます発展できるようになると。
井上:それはマルクスの時代からしても、かなり後の話ですね。そもそもマルクスの時代にですか?
松尾:マルクスは一番ざっくりとした解釈ですね、一番ざっくりとした解釈としてはそういうことだから、基本的に生産力の発展というものは肯定するという。
井上:肯定的ですよね、そうですよね。どういう体制が経済成長にとってはふさわしいかというのは、ちょっと意見が分かれるところだと思うんですが、マルクスが経済成長自体を否定したことはないということですよね?
松尾:はい。ついでに補足しておくと、今のヨーロッパの左翼の状態、ものの考え方というか、ヨーロッパは左翼だけじゃなくて右派から、新自由主義バリバリのいわゆる右派ですけども、いわゆる保守派というか、そういう新自由主義バリバリのブルジョア側の人たちというのは、基本的に緊縮ですね。なるべく政府はお金を使わないようにしましょう、小さな政府にしましょう、民間に任せましょう、市場に任せましょうという考え方ですね。だから、そっちはお金をなるべく使わないようにしましょう、財政再建というか、財産赤字を出さないのがいいんですという感じですね。これはヨーロッパの右派のメルケルさんとか一番そんな感じだし、イギリスの保守党もそうだし、オズボーン財務大臣とか一番言ってたんですけどね。こうやって緊縮して締めますよっていう、それが右派で、それに対して左派というのは、いや、そうじゃないというふうに、国民のために必要なことは、政府はお金を使うべきなんだ、それで財政赤字とかそういうことを気にしてはいけませんよと。なるべく、赤字になったとしても国民生活のために、人々の生活のために財政を政府出動するのがいいんですよという、そういう考え方が基本的には左派です。だから向こうはそういう並びでいって、ただし極左の人たちというのは、国の借金なんか返さずで良くて、全部徳政令でチャラにすればいいんだと、そういう考え方をするのは極左というか、いわゆるアナーキストの人たちがそうですが。だから、左になればなるほど、国の財政なんて心配をする必要はないというふうになっていくという、そういう図式です。そういう図式だから、日本も何か知らないけど逆という感じが非常にするわけですね。反緊縮運動というのが、今ヨーロッパの左派系の人たちとか盛り上がっているんですけれども、今の話に移りますが、反緊縮というのは別に福祉にお金を使いなさい、財政支出たくさんしなさいという、もちろんそれが中心です。それはやるべきで、福祉とか教育とか医療とか、人々の生活に必要なことに政府のお金をたくさん使っていくべきだというのが中心ですけども、これだけじゃないんです。これだけじゃないので、やっぱりヘルシーなグロース、成長を目指しますよというのは、そこに必ずくっついてくる話になります。
そしてやっぱり反緊縮というのは、その裏として債務問題なんですが、債務心配して、債務を削減しなければいけないというような考えはおかしいですよと、そんなのなくさなくていいんだというのは、裏に必ずあるわけです。ということを向こうの人たちは言っていると。だから、例えばこないだフランス大統領選挙に出た左派系の候補のメランションさんですが、2割取ったんですけれども、もう少しで決選に行けた。メランションさんが今回の選挙のときに言ってたのは、ヨーロッパ中央銀行が、各国に債務がありますから、これを買い取ってしまって債務問題は解決すべきだという話です。今の日本もそうなりつつありますけれども、それをやってチャラにしてしまえということですね。そういうことを主張しているわけです。基本的にこういうことを向こうの人たちは言っていると。ドイツ左翼党のリーダーとかも、いわゆる中央銀行の財政ファイナンスですね、中央銀行が政府にお金を貸すということによって、政府支出をしていくべきだということを言っているし、ヨーロッパの共産党とか左翼党の集まり、欧州左翼党も基本的にそういう考え方ですね。ヨーロッパ中央銀行がお金を出して、そのお金でもって政策銀行を使っていろんな公共工事をしていくとか、そういうことによって景気を良くしていく、雇用を拡大していくということをやるべきだということを主張しているのは、欧州左翼党、一番左翼の党ですね。そんな感じです。
この間イギリスの総選挙があって、保守党が圧勝するというふうに思われていたのが、労働党が大躍進しまして、それでややこしそうな過半数割れに追い込まれましたけれども、このときに労働党はコービンさんが党首ですが、労働党がなぜあんなに躍進したかというと、反緊縮のマニフェストが受けたということですね。やっぱりそこでもいろいろ教育とか福祉とかそういうことに、お金をたくさん使っていきますということを言ってるんですが、それに対しては大企業とか法人税増税して、大企業とかたくさんお金を取りますと。あるいは累進課税を強化して、富裕層からお金をたくさん取りますということで、それで財源を付けてるんですが、それだけだったらやっぱり景気が悪くなっちゃうということですね。みんなが心配するわけです。それで一方で何を言っているかというと、2500億ポンドの公共投資をしますと言ってて、その財源は何かというと、やっぱり定期でお金を借りてきてやりますということで、それはイングランド銀行の金融緩和があって背景があるわけです。そうするとやっぱりイングランド銀行が国債を買い取って、そのお金を出すということに支えられて、そういうことを考えているということになります。
だから基本的に、先方は左派がそういうことを言っている。左派は債務問題なんかを心配するのは、これは新自由主義のプロパガンダだと。それによって、そうやって新自由主義者はそういうふうに宣伝することによって、政府支出を削減していって、福祉削減とかしていって、その分の社会サービスをビジネスチャンスにしていこうとしていると。あるいは、そうやって失業(対策)とかをやって、地域に提案して労働者をおとなしくさせるということのためにやっているものなんだと、こんなことに囚われてはいけないということを言っているというのが、左翼側が言っていることだということです。
井上:今おっしゃった通りなんですが、日本では右と左がひっくり返っちゃってわけ分からなくなっているということなんですね。政治的に右な人が経済的には左で、政治的に左の人が経済的には右みたいなことが平然と行われて、それは部分的にですけども、そういうことが行われていて、一時期金融緩和を進める政府与党とかその支持者たちを指して、金融右翼という言葉をマスコミが使っていたときがあったんですが、金融緩和する人たちは、それは金融右翼じゃなくて金融左翼なんですよね。何という言葉を使っているんだと思ったんですが、そういう、日本ではねじれが起きているということなんですね。別に政治的右翼の人が経済的左翼で、その逆があっても全然いいとは思うんですが、ちょっとそれが日本ではねじれているという意識すら持ってない人が多いので、ぜひ、もしそういうことを意識なさっていなかった人がいたら、ちょっとよくご認識していただきたいなと思っております。
松尾:ちなみに補足しておくと、ヨーロッパでもいわゆる極右ですね、アメリカもそうですけれども、いわゆる極右の人というのは、反緊縮ですよ。反緊縮という言葉は使わないかもしれないけど、緊縮じゃないですよね。政府支出をたくさんやることによって、もっと国民の生活を、これこそ連中の話ですから国民ですよ、そういう自国民ですよね、自国民の生活をもっと豊かにしていくというか、真っ当なものにしていくということにたくさんお金を使いなさいと。場合によってはそのために金融緩和でお金をつくるという、ヨーロッパなんかの場合は、ヨーロッパ中央銀行があるせいでそれができないんだから、自分の国の中央銀行を取り戻そうという話ですね。ということを極右の側は言っているということです。ルペンさんとかそういう主張ですよね。手厚い福祉をやりますと言っているわけですよね。それからトランプさんも大規模な公共投資とかをやりますということを言っているわけで、いわゆる右派という、これまでの中心だった新自由主義者は緊縮だけども、極右はそう言っている。ハンガリーという国がありますけど、ハンガリーも極右政権で、人権無視ですね。人権無視だし、法治原則みたいなのも無視だし、ゴリゴリにやってはるんですが、そこの首相のオルバーンさんっていうのが、彼がやっているのもやっぱり中央銀行が金融緩和をたくさんやってお金つくって、そのお金でもって政府支出をたくさんやって、景気良くしている。本当に景気良くて、それで国民から圧倒的な支持を得てるというのがありますね。だから、今ねじれということをおっしゃってる、ある意味ではねじれではなくて、こんなことは日本では4年前から実は続いていて、極右がやってるんですよ、極右が。
聴衆:(笑)
井上:それが、日本は世界に先駆けてやっていたと。
松尾:先駆けてやっていたということですね。
井上:そういう観点から言いますと、松尾先生の右翼・左翼の定義が、私、今まで聞いた中で、非常に一番しっくりときているんですが、右翼は外と内の区別にこだわるんでしたっけ?
松尾:はい。
井上:それで、左翼は上と下、金持ちと貧しい人とか、階級の区別にこだわるというところがあるわけですけども、この定義から一つ明らかなことというのは、右翼と左翼って一つの軸の上で右にいて左にいるんじゃなくて、実は直交しているという話なんですね。なので、内と外の区別にこだわり、かつ上と下の区別にこだわる、その格差を例えばなくしたいという人は、右翼でありかつ左翼であるということになりますし、日本は実は戦前からそういう動きってありまして、革新右翼という言葉がありますんでね。私の祖父がちょうどそれだったんですけども、革新右翼の運動家だったんですが、革新右翼って、革新って普通左翼のことなんですが、左翼右翼ってどういうものかっていうと意味が分からないんですが、このさっきの松尾先生の図式に則って考えると、別に何ら不思議な話ではないということなんですよね。
松尾:はい、そうです。だから…
聴衆:ファシズムもそうなんでしょうね。
松尾:ファシズムもそうですね。国家社会主義とかってもともとそうなんですが、だから左派側の人たちというのが、いったい自分たちの票のライバルというか、どこと票を取り合っているんでしょうという、そういうことをちょっと誤解してはいけないと思うんです。実は本来左派側の社民党さんとか共産党さんとか、本来左派側が票田としていた人たちというのは、ひょっとしたら中道に行くかもしれない人じゃないんですね。そういうふうに考えてるかもしれないけれども、そういう人もいると思いますけれども、その票田のかなりの部分というのは、実は極右と票を取り合っているということですね。与党なんかもまさにそういう図式なんです。共産党と極右、メランションさんとルペンさんの間で同じ支持層を取り合っているという、そういうことです。
だからその点を認識を持つべきだと思うんですけれども、例えば日本は保守化しているから、もっと中道的にならなければいけないというか、保守側と連携しなければいけないとか、そんなふうにしないとこれからは先細りですよみたいな、そんな総括をする場合もあるんですが、ますますそうすると先細っていくということ。つまり、そういうふうに思って先ほどの文化の香り高い、そんなふうなところに手を結ぶというか、緊縮的な思考を持った中道ですね、緊縮的な思考を持った中道と手を結んで、そっちと連携していくことが野党共闘だとか支持を広げることだとか、昔みたいなゴリゴリの左翼ばっかりに閉じこもっててはいけないから、そういういうところと手を結んでいくのはこれからの新しいやり方で、そうじゃないとジリ貧なんだとかって思って、そっちのほうに手を伸ばして、そういう緊縮的な思考を持った改革派の政治家、いわゆる中道というか、そういう政治家と、あるいは中道でもないかもしれない、もう保守と言っていいかもしれないけれども、そっちのほうと手を結んでいこうというような話とか、というようなことをやっていくと、ますます嫌われる、票を失ってしまうと。その失われた票は、最も危険な極右のほうに取られていくと。現状だったらまだ安倍さんの支持者になってというふうな感じになっているのが現状なんじゃないかなというふうに思います。
井上:でも、じゃあ誰と手を組めばいいかって言ったときに、極左の人が極右の人と手を組むわけにもいかないですしね。
松尾:いかないですよね。
井上:それは、場合によってはありうるかもしれませんけど。
松尾:だから、そもそも左派側が、こういう極右に行ってしまいかねない人たちをつなぎとめることができるような…
井上:経済政策を、みたいな感じで。
松尾:そうそう、そうですね。ということで、それでじゃあ、借金大丈夫と言うんだったら、財源どうすればいいんですかということで、お得意のマネークリエーションとヘリコプターマネーにいきましょうか。
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◆井上准教授解説
井上:じゃあいきます。お金がどうやって創られているかという話をまず簡単にしたいと思うんですが、信用創造という言葉がまずありまして、お金って誰が創ってますかと聞かれたときに、それ中央銀行なんじゃないのと答える人が多いと思うんですが、これは主に多くの部分を創っているのは、実は中央銀行じゃなくて普通の民間銀行です。みずほさんとか三菱UFJさんとか、そういう民間銀行がお金を創っているということですね。もう少しちゃんと言いますと、これすごく単純化して言うと、現金は中央銀行が責任を持って発行していますと。預金ですね、預金も一応お金とみなされていて、預金貨幣は市中銀行が創っているというふうに、すごく単純化して言うと、こんなふうに言えます。銀行って何ですかと聞かれたら、これはお金を創るところですという答えが一つ言えるとか思います。
よく銀行というのは、これ経済学の教科書には金融の仲介者と載っていますけども、単なる金融仲介者じゃないということなんですね。バンクとノンバンクは何が違いますかって、ノンバンクは預金を預かることができないが故に、お金を外から借りてきて人に貸すしかないのがノンバンク。バンクは自分でお金を創れるんで、預金を預かることとお金を創れることというのは、ほぼ同じ意味を持っています。
ではどうやってお金を創るんですかというお話なんですが、Aさんが市中銀行に、民間銀行に100万円お金預けますということなんですが、そうした場合に銀行が10万円だけ金庫に入れておいて、残りの90万円を貸し出すとします、これBさん、違う人に貸し出しをします。この貸借対照表はちょっと無視してほしいんですが、この時点で世の中に出回っているお金はいくらでしょうかということなんですが、これは最初に100万円預けて、100万円から別にお金を増やした気配はないんで、じゃあ100万円なんじゃないかと皆さん思ってしまうかもしれませんが、これ190万円なんですね。なぜかと言うと、AさんはAさんで銀行に100万円預けてるんで、100万円持っていると思ってるんですね。BさんはBさんで90万円借りたんで、自分は90万円持ってると思ってるんですね。Bさんが90万円持ってる、Aさんは100万円持っている。Aさんはこれ単に預けていると思ってるんで、100万円全部金庫に入れてくれてると思ってるのに、実は100万円のうち金庫に入れてくれてるのは10万円だけで、こっそり90万円貸してるんですね。こういう、ちょっと詐欺って言ったら銀行の人に申し訳ないんですが、こういう不思議なからくりがあるがためにお金を増やすことができるのが銀行ということなんですね。
しかもこの90万円をBさんが今度また市中銀行に預けると、これで預金が全部で190万円になるということなんですが、最初の預金は本源的預金と言って、こっちの預金は派生的預金と呼びますみたいなことは、普通にマクロ経済学の教科書に書いてある話なんで、別に私が勝手にこういうことを夢想して言っているわけではないということですね。ただ、普通の経済学の教科書に書いていないことが、この次のことなんですが、このBさんにお金を貸すときに、90万円現金で渡す必要ないんですね。Bさんに銀行に預金口座をつくってもらって、Bさんの預金口座に90万円って書けばいいだけなんですね。だから、別に何もお札を持っている必要はなくて、単に90万円という書き込む作業さえすれば90万円貸したことになって、これで預金貨幣が190万円に増えるということになります。これを応用するともっとすごいことができて、100万円しか預かっていないこの市中銀行が、何とBさんにいきなり700万円とか、これ別に10億円でも構いません。10億円突然、何もお金持っていないんです、これ市中銀行は資金がないのに、10億円っていって書き込めばいいだけなんですね。それだけで世の中に出回るお金の量というのが10億プラス100万円ということになるということですね。
こんな感じに、預金を預かるということができるが故に、市中銀行は信用創造ができます。信用創造というのは、英語ではMoney creationと言うんですが、あまりCredit creationとは言わないですね。貨幣創造という、お金を創ることができるのが銀行の役割ということですね。
それで、今の貨幣制度というのをまとめると、一つは管理通貨制度ですと。さっき松尾先生が金本位制の話をしましたが、金の裏付けは必要ないんですね。ただ、お金の量を中央銀行はコントロールする。二つ目が中央銀行集中発行制度ということなんですが、昔はフリーバンキングと言いまして、各銀行が勝手に自分たちでお札つくって、それを流通させてたんですね。ちょっと皆さん信じられないかもしれませんが、みずほさんがみずほお札を発行するとか、三菱UFJ銀行が三菱お札を発行するとか、そういうイメージです。勝手にそれぞれの銀行がお札を発行していたのが、それではうまく、お金がいっぱいいろいろあると不都合なので、中央銀行のみがお金を発行できるようにしましょうというのが銀行券集中発行制度で、今はこれを採用しています。
あともう一つ重要なのが、部分準備制度と言って、さっき市中銀行が預金の一部を保管するということを言いましたが、それを準備預金というふうに言うんですが、全部を貸し出しに回さないで一部を預金準備として残しておいてくださいということですね。具体的には、市中銀行が日本銀行のような中央銀行に対して、当座預金を持っています。我々市民は市中銀行に預金を預けていますが、市中銀行は中央銀行にさらに預金を預けています。中央銀行は銀行の銀行という役割があるわけですね。そうすると、ここに一部お金を預けて、残りを貸し出しに回すということをやっています。さっきのこの図だと、自分ところの金庫に10万円預けているという感じなんですが、金庫にはあんまりお金持っていません、市中銀行は。銀行に預けるのではなく、現在行われているのは中央銀行の当座預金にお金を預けるということをしています。これはもしもの場合に備えて、取り付け騒ぎとかあったりするとやばいので、みんなが一斉に預金を下ろそうということが起きたりするとまずいんで、一部だけはお金をちゃんと確保しておかないといけない、残りは貸し出しに回すということをやっています。
これ部分準備制度があるんですが、準備率というのが法律で決まっていて、1%とか預金準備として預けておかなきゃいけない率が、法律で決められています。だから市中銀行が持っている預金のうち1%を預金準備として、例えば預ける、残りの99%は貸し出しに回すみたいなこともやっています。それは法律に則ってやっているわけですけども、今は法律的にこれだけ預金準備を預けていなきゃいけませんよ、という額をはるかに超えて預金準備が積み上がっています。それを超過準備と呼んだり、俗にはブタ積みと言ったりするんですが、無駄に積み上がっているお金ということですね。
ここから何が言えるかというと、今金融緩和をどんどん行ってますという話なんですが、なぜその金融緩和を行って貨幣供給量を増やしているはずなのに、インフレ率が2%の目標に到達できないのかという話なんですが、そもそも貨幣供給量自体が増えていないんですね。いや、これ増えているじゃないかと思うかもしれませんが、これはさっきの中央銀行の当座預金、ここの日銀当座預金に積み上がっているだけで、これは貨幣供給、マネーサプライとは呼ばないんですね。これは世の中に出回っていない。だから、どこかでお金が止まっちゃってるんですね。どこで止まってるんですかと言うと、市中銀行のところで止まってしまっている。市中銀行が中央銀行に蓄えているお金、ここが膨らんでいくだけで、こっちの企業への貸し出しのほうに全然お金が回っていないというのが、今の状況なんですね。
それで、世の中に出回っているお金をマネーストックとかマネーサプライと言うんですが、これがあんまり増えてない。全然増えてないわけじゃないんですが、十分増えていない。この中身は現金と預金です。これが我々が普通、お金と言っているものです。それとは別にお金の定義があって、ハイパワードマネーとか、マネタリーベースとか、ベースマネーと呼ばれるものなんですが、これは現金プラス準備預金、あるいは預金準備と呼ばれているもので、これはさっきの日本銀行の当座預金に溜まっているお金で、こっちのハイパワードマネーのほうはどんどん増えてるんですが、こっちのマネーストックとかマネーサプライと呼ばれているものはあんまり増えていないというのが現状です。お金が流れていっていないということですね。
だから、このハイパードマネーとマネーストックの増大率を比較すると、これはそれぞれの増大率で、赤のほうがハイパワードマネーの増大率、緑のほうがマネーストックの増大率なんですが、金融緩和をガンガンに行ってこの増大率をすごく増やしても、マネーストックの増大率のほうは低位安定、低いところでずっと安定しているという状況になっています。それで、過去10年20年ぐらいを見ると、だいたい2%ぐらいしかマネーストックは増えていないんですが、バブル崩壊以前は10%を超えていたし、バブルが起きる前ですら7~8%ぐらいのマネーストックの増大率があったのが、ここがマネーストックの増大率が低すぎるんで、インフレ率が低いのはこれは当たり前ということなんですね。こういうハイパードマネーとマネーストックの増大率のデカップリングというのが、私は非常に大事だと思ってるんですが、デカップリングが起きている理由というのは、そうやって市中銀行がお金をずっとためていて貸し出しに回さないからということですね。
それで、じゃあヘリコプターマネーって何かというお話なんですが、これは私の言う定義なんですが、公的機関が貨幣発行を財源に政府支出を行うこと、ですね。一応他にも定義があって、回収されることのないお金をばらまくとか、恒久的にマネタリーベースを増やすとかっていうことが定義されている。私はこの定義でいいと思います。具体的にはどうやるかという話なんですが、そもそもヘリコプターマネーというのは、ミルトン・フリードマンというノーベル賞を受賞した偉大な経済学者がいるんですが、その人がヘリコプターで空からお金をまくかのように、世の中に出回るお金を増やしたらどうなるかという試行実験を行って、そこからヘリコプターマネーという経済用語が一部で使われるようになったんですが、ヘリコプターマネーにもやり方が少なくとも3つはあると思っていて、まず2つ分類すると、直接的なヘリコプターマネーと間接的なヘリコプターマネーがあります。直接的ヘリコプターマネーの中に政府紙幣発行と、直接的な財政ファイナンスがある。間接的な、これは間接的な財政ファイナンスがあるということなんですが、それぞれ図を使って説明すると、これ通常のお金の流れは、これさっき出てきた図ですけども、市中銀行、民間銀行が持っている国債を中央銀行が買い取る。その対価としてお金を渡すということですね。この民間銀行が、それだけではお金が出回っていかないで、ちゃんと企業に貸し出しをしないといけないんですね。貸し出しをすることによって信用創造が行われて、マネーストック、マネーサプライと呼ばれるものが増えて、しかもそれがさらに増えただけでは我々は潤わなくて、企業が内部留保という形で溜めているかもしれない。あれは今非常に溜まっちゃってるんですよね、実は。民間銀行もお金溜めてるし、企業は企業で内部留保を溜めてるし、家計に、全然こっちに回ってこない。だからお金よこせって話ですね。
ここの賃金のところを増やしてくれないということで、いつまでたっても家計がなかなか景気回復の実感がないと皆さん言うんですが、ここにお金回ってこないんだから、これは当たり前なんですね。失業率が減ったのは非常にいいことなんですが、どうも賃金が増えていかないというのは、ここにお金が流れていかないからなんですが、だからマネーサプライという言葉の定義からすると、この貸し出しのところさえ突破すれば、何とかマネーサプライは増えることになります。だから、実質的にはこっちの家計のほうにもお金がいかないと、消費需要はなかなか増えないということなんですが、なので2回もお金の流れを堰き止める存在が家計の前に存在しちゃっているというのが、今の貨幣制度の問題点ということなんですね。
これを、ヘリコプターマネーは貨幣流通の経路を変えるというのが、私は一番大きな意味を持っているというふうに思っています。世の中に出回るお金の量というのは絶えず増やさないといけないというのは、これは歴史上その通りなんですね。経済成長するわけですから、経済成長して経済の規模が大きくなるに従って、お金の量を増やしていかないといけない。こういうのは成長通貨とかって言ったりするんですが、経済成長に合わせて通貨は増やさないといけないということなんですが、だとしたら、どうせお金を増やさないといけないんであれば、もっと違うやり方でお金を増やせばいいじゃないかということなんですが、例えば政府が紙幣を発行して、そのままそれを家計に配っちゃうということなんですが、政府が紙幣を発行するということは、実は近代以前にはよく行われていました。特にやってたのは中国ですね。中国の宋の時代から、交子というお札がありまして、それを政府は発行して使っていたということで、政府紙幣というのは、昔からよく行われていることです。日本は江戸時代に藩札と言って、藩が発行しているお札がありましたし、明治時代になってからも太政官札のようなお札を発行して、それを財源に戊辰戦争を行っていたりしたわけですけれども、そういう政府紙幣を発行するというのが、それがヘリコプターマネーのやり方の一つの方法です。通常のお金の流れではない経路を考えているということになります。
もう一つが、私が直接的財政ファイナンスと呼んでいるもので、政府が紙幣を発行するんじゃなくて、今は中央銀行が発行主体になっているんで、中央銀行が紙幣を発行して、それを政府に渡す、政府は国債を中央銀行に渡す。そのもらったお金を政府が家計に配る。これがさっきの政府紙幣とはちょっと違っていて、もう一つの方法になります。政府自体が紙幣を発行するんじゃなくて、中央銀行が発行する。ただ、これはさっきお話しした統合政府という見方で見ると、これもこれも別に同じです。ただ、発行主体を分けたほうがインフレになり過ぎないで済むかなというのはあります。結局、政府紙幣の一番大きな弱点は、政府はこれを使ってバンバン財政支出を行うと、インフレになっちゃう可能性がある。その歯止め役が必要なんですが、それを中央銀行が、例えばインフレ率2%になるまでは、政府にお金を渡すというふうな取り決めにしておけばいいということはあります。
この直接的財政ファイナンスは、実は1930年代に高橋是清の下で、高橋財政と言いますが、日本も行ってきたことなんですが、これが軍事支出に使われていたためにそこがどんどんどんどん膨らんでいって、それで高橋是清は結局、軍事支出の拡大に反対したんで、二・二六事件で暗殺されてしまったということなんですが、その後は高橋是清みたいに抑えに回る人がいなくなっちゃったんで、膨大に、これを財源に軍事支出を行っていったという負の歴史が日本にはありますので、だから日本は特にこのヘリコプターマネーに反対する人が多いんですが、それは中央銀行が2%のインフレ率になるまでという足かせをちゃんと公的に整備するということが一つと、あともう一つは一般的な支出には使わないというのが私は大事だと思っていて、単に家計に配るだけ、これダムをつくったり、橋をつくったりしても駄目ですというふうな取り決めにするのは、私は大事だと思っています。当然軍事支出なんかに回してはいけませんということですね。それをしっかりと制度化しないといけない。
ただ、ヘリコプターマネーって特別な政策なのかというと、もう既にやっています。既にやっているのはこのパターンです。間接的な財政ファイナンスと私は呼んでいるもので、今もう政府は国債を発行して、だいたいそれは民間銀行に行くことが多いんですが、これ民間銀行を、中央銀行は国債を買い取って、中央銀行がお金を渡す。そうするとお金の流れからすると、中央銀行から民間銀行に行って、政府に行って、政府から家計に、家計にはあんまりお金行ってませんけども、ちょっとこれに近いような、むしろこのお金が企業に行ってるかな、年金という形でちょっと行っているかもしれないですね。企業に行っている部分もありますということなんですが、いずれにしろこれに似たような状況に、今、日本はあるんで、間接的財政ファイナンスという形では、ヘリコプターマネーをやっているということなんですね。だから、ヘリコプターマネーはいい政策なのか、悪い政策なのかという議論は大いになされるべきだと思うんですが、もう既に間接的にはやっているということは意識される必要があるかというふうに思っています。
いずれにしても、こっちにしろこっちにしろ、さっきお話に出てきましたが、結局国債を中央銀行が買い取って、政府と中央銀行と二つ統合して統合政府という見方をするのであれば、やってることは政府紙幣を発行するというのと同じことをやっていますので、別にそれをこの二つの経済主体が、政府が中央銀行に借金してたって別に問題ないんじゃないかということになりますので、それを財源にお金を支出してもいいんじゃないかと思っているんですが。
聴衆:すみません。中央銀行が直接発券するんだったら…
井上:それもありなんですが、今のところ中央銀行には財政支出をする権限というのが与えられていなくて、これは制度の仕組みの問題なんですが、さっき松尾先生がおっしゃったように、なんらかの資産と交換でしかお金を渡すことができない。単に中央銀行がお金を発行して、何の対価もなしに、はい、あげるっていうふうにあげることは、今のところできないことになっていて、何か代わりに資産をよこせという話になってるんで、今だったら国債を代わりによこせということができます、ということですね。
あとすみません、政府紙幣ではないんですが、政府が鋳造したコインを発行して、政府がそれを財源に支出するということは、最近でもやったことがあります。昭和61年に昭和天皇在位60周年記念コインというのをつくって、10万円の金貨だったですね。買った人いますか? いらっしゃいますね。うちの親父も買ってましたけども、その金貨に含まれる金の価値が、ちょっとすみません、正確には忘れちゃったんですが、3万だか4万だかっていう話だった。もし3万だったとすると、7万円分が政府の儲けになるわけですね。それを貨幣発行益というふうに言います。貨幣を発行することによって得られる利益、貨幣発行益というふうに言うんですが、これお札のほうがもっと実はすごいあるんですね。お札なんていうのは、1万円のお札を刷るのに1円も掛かってないと思うんですが、1円だとすると9999円は政府の発行益になるということなんですが、貨幣発行益をそういうふうに捉えるべきではないという意見もあるんですが、私は別にそういうふうに捉えていいと思っています。そうすると、お札を発行すればするほど政府は儲かるということなんですが、その当然副作用としてインフレがあるんで、インフレにならないぐらいのいい湯加減になるぐらいに、政府はちょうどよくお金を発行していくと。私はこのパターンが一番いいと思っています。
政府が発行するとちょっとまずそうなんで、中央銀行に発行させて、発行量は中央銀行が決める。余計なことには使わないで、家計にそのままガバッとということなんですが、さっきランチしているときに、ヘリコプターマネーという言葉が良くないと言われて、じゃあオスプレイマネーがいいのかというふうに言ったんですが、余計良くないというふうに言われてしまったんですね。何がいいかなという話なんですが、もともとベーシックインカムの基になる考え方を20世紀にもいろいろ論じた人がいるんですが、そのうちの1人がダグラスという人なんですが、ケインズの一般理論という本に、ダグラス少佐という名前で出てくるんですが、一時期軍人だった時代があるんですね。時期があったんで、それでダグラス少佐というふうに、ちょっと半ば馬鹿にしたように言っていますよね。そうじゃないですかね、ダグラス少佐は。
松尾:カール・マルクスと並んで出てきますでしょ。ケインズ自身のあれからすると、マルクスって結構攻撃したい相手だから…
井上:そういう意味では、ダグラスのほうを持ち上げているという感じではあります。
松尾:いや、多分ケインズのつもりでは、当然もう二人並べたというつもりではいるんじゃないかなという気がします。
井上:そうですね。ケインズの文章からすると、半ば面白いことも言っているけど、ちょっとトンデモ系だよねという感じで、肯定する部分もあり、批判する部分もありということだと思うんですが、ダグラスも現代的なベーシックインカムの起源の1人だと思うんですが、その人が国民配当という言葉を使っています。株主の人もいると思うんですが、株主の人は年に2回ぐらい配当という形で、企業からお小遣いをもらえるわけですけども、これは企業が収益を得ているから当然株主はお小遣いをもらえる、当たり前ですよね。そうしたら、政府は収益を得ている場合、政府は儲かった部分を国民に配当すべきじゃないかという考えになるわけですけども、そこから国民配当という考え方が出てくると思うんですが、これは資源国では、やっています。国民配当という言葉ではないですが、私が国民配当と呼んでいいようなことをやっている国が、まず地域としてアラスカがありますし、あとイランでもやっています。これは天然資源が採れる国ではそういうことができるということなんですが、じゃあ日本みたいに資源のない国は、国民配当として配当するものが何もないかというと、これは貨幣発行益があるじゃないかと。貨幣発行益は誰のものか、我々のものじゃないかというふうに私は思うんですが、貨幣発行益を配当せよということを私はこの10年ぐらい言ってるんですが、それを一言で言うと国民配当というのをするべきじゃないかということなんですね。以上です。
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松尾:ありがとうございます。さっきのダグラス少佐とマルクスの話というのは、ケインズは吾輩が合理的にこうやって論じていることの先駆者というのは、昔はこんなトンデモしかいなかったという、そういう文脈です。だから、半分は馬鹿にしてるんですけど、自分が見つけ出したことを先駆者として言ってるというので、2人並べてあるという感じですね。ヨーロッパでは、実は、今の何に使うかという話で、やっぱり国民に配当するという、そういう流れが、これが狭義のヘリコプターマネーと言いますけども、論者とともに、先ほど出てきましたけれども、イギリス労働党のコービンさんのようにそれで何か公共投資をしたり住宅を建てたりと、いいことに使いますという、そういう二つ路線があるんですね。左派系の論者の中では、特に学者の間で論争があって、どっちがいいのかという話のときに、先ほどのお話のように、やっぱりインフレがひどくなったときにやめられなくなると、何か特定の目的のためにやってたら。だから、ばらまくほうがいいんだというのが、狭義のヘリマネのほうの主張ですね。
そういうことで、その論争自体は非常に内部は興味深くて、私自身も実は井上さんと同じで、ポンとばらまくほうが調整がしやすいからいいと思っています。ということなんだけれども、日本ではそれ以前のレベルだから、とてもそんなどっちが正しいとか、どっちが間違っているとかっていうのは、評論とかあまりするようなレベルではないので、コービンの秘蔵とかって言ってますけど。
井上:そういう意味で言いますと、ヘリコプターマネーという言葉自体にアレルギーを持つ人がいることが、もう私、日本は駄目だなと思ってしまって。もちろん日本も、ええじゃないかとか言ってたわけですから、ヘリコプターマネーという言葉自体が私は非常に景気のいい話というか、何か気持ちを明るくするものだなと思っているのですが、それを不道徳でけしからんみたいな、そんなつまんない道徳観を振りかざすこと自体をやめましょうというのが、私の主張なんですね。そういう価値観をまず変えていかないと、なかなかヘリコプターマネーとかベーシックインカムっていうのは、導入が難しいのかなと思ってるんですが。
男性:ヘリコプターって両論が出ない。
聴衆:(笑)
聴衆:うまいやつにはたくさんプールしていて、でないやつは止めないといけない、そういうイメージでちょっとやっぱり敬遠するのかなと。
井上:なるほど。
聴衆:ちゃんと落ちてくるように、うまくまいてくれればいいのに、ヘリコプターってやっぱり集まって回して…
井上:そういうイメ―ジが付いてしまうんですね、なるほど。背の高い人が有利ということですね。
一同:(笑)
井上:なるほど、ありがとうございます。
(7)ベーシックインカムは何を変えるか?
松尾:あとちょっと、時間がなくなってしまっているので。私もあと1時間あると思ったらあと30分しかないということなんで。どうしても私自身が尋ねたいことが、信用創造について、井上さんの本ではヘリコプターマネーをやって、それでベーシックインカムをするというようなことをやったときには、整合的になるようには信用創造をやめてしまえという話になりますね。これは実は欧州の論者でも同じことを言っている人たちがたくさんいるというか、ヘリマネみたいなことを言いだしている人たちというのは、裏で信用創造やめましょうということを同時に言っている場合が多い。いろんな立場の人がみんな言っているし、実は私の師匠も言っていたので。大学院のときの師匠、もう死んじゃってますけれどもね。というのを思い出したりしたので、その辺がどう整合的なのかということと、私自身がそれは理解はするんだけれども、現実的に落とし込むときにそれが可能かということがちょっと疑問に思うので、その点のところってどうですか?
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◆井上准教授解説
井上:そういう意味で言うと、さっき貨幣発行益と言いましたが、貨幣を発行するのは中央銀行だけじゃなくて、お札は中央銀行だけなんですが、信用創造という形で市中銀行も貨幣を発行できるということであれば、市中銀行も貨幣発行益を得てるということなんですね。とすると、これは民間銀行が勝手にお金発行して儲けているという話になって、何で民間銀行だけ特権的にそんな権利が与えられているのかと。一つのやり方として、国民全員、あるいは全ての企業が貨幣を発行して、そこから利益を得るようにしましょうという考え方はあり得ます。それは今の世の中の潮流にすごく合っています。例えばビットコインとかでマイニングしてすごく儲けている人。あれはいわば貨幣発行益を得てたんですね。でもあれがちょっとまずいなと思うのは、先行者利益が大きすぎるということですね。格差がますます開いてしまって、新しい通貨の貨幣発行益を得た人はすごく儲かるけど、後から入ってきたらあまり儲からないとか、そもそも貨幣発行益が全然得られないとかいうことなんで、貨幣発行益の権限を分権化する方法と集権化する方法とがあって、今は中途半端なんですね。私は集権化したほうがいいと思っていて、つまり中央銀行のみがお金を創ることができる、これはお札だけではなく、民間銀行が預金貨幣を創る権利というものを、もしなくしちゃうとするんであれば、その分、中央銀行は今のマネーストックと同じだけの量の直接お金を創ることができるんで、それは丸々我々の貨幣発行益になるということなんですね。
その代わりには何をしたらいいかというと、民間銀行にお金を創れなくしちゃえばいいということなんですが、要するに信用創造を禁止するということになります。それは別の言い方をすると、さっき部分準備制度という話が出てきましたが、部分準備じゃなくて100%準備にするという話ですね。一部を預けて、他を貸し出しに回すという、一見詐欺みたいなことをやっているからお金を創れるわけなんですが、そういうことをやめてくれと、全部100%お金を保管しておいてくれと。我々は実は市中銀行に対して、お金を貸してるのか預けてるのかよく分からない二重性というのがあるんですね。この二重性があるがためにお金を創れちゃうわけですが、この二重性をやめてくれと。我々市中銀行にお金を貸してるんじゃなくて、預けてるだけです、だから丸々保管しておいてくれということになります。
そうすると市中銀行は、巨大な金庫にしかならなくなるんですが、ではお金を貸すという金融仲介の役割をどうしたらいいかというと、それは別に別建てで、我々が市中銀行に対してお金を貸すということは、預けるということとはまた別にやると。市中銀行は企業にお金を、それを貸し出すという経路と分けてくれということなんですね。今は貸してるんだか預けてるんだか、よく分からない。でも貸し出しは貸し出し、預け入れるのは預け入れ、預け入れたお金は他に貸さないということですね。その峻別を付けるということが、結局信用創造をなくすということにつながって、ここではもうお金が創れないようになる。その代わり、中央銀行が丸々お金を創れるようになるんで、それが全部100%我々の貨幣発行益として、利益を享受することができるようになるということなんで、だから信用創造を停止する、100%準備にするということが、貨幣発行益をより多く得る、これは本当に莫大に違います、その分というのは我々の利益になるので、非常に大事なことだと思うんですが、ただ、いきなり禁止するって難しいかと思うんで、これはさっき言った法定準備率というのを徐々に上げていけばいいというふうに、これは漸進的に制度を変更することができます。今例えば1%だとすると、2%、3%と徐々に上げるということですね。
今はまだインフレ率2%に達していないので、緊縮をすべきではないと思うんで、今は法定準備率を上げる必要はないと思うんですが、今後景気がもし過熱し過ぎて、インフレ率が2%を超えるようになったときに何をすればいいかというと、私はその段階で徐々に法定準備率を上げていく形で景気を抑えるということをやっていけばいいと思っていて、そこから100%を目指すべきなんですが、50%ぐらいでもいいです。私結構簡単に発表しちゃうんですが、50%ぐらいでいいんで、とりあえずあんまり信用創造しないでくれということですね。日本ではこういうことを言っている経済学者ってあんまりいなくて、私と多分数人ぐらいしかいないんですが、アメリカは結構こういう議論ってさかんに行われています。貨幣制度を変えないといけないとか、信用創造を停止しろという話もありますね。
さっき言った、100%準備制度ということ自体も昔に、さっき言ったミルトン・フリードマンというノーベル賞受賞者、経済学者とか、あるいはフィッシャーといったような結構昔の偉大な経済学者も言ってますし、最近アメリカでまたこの話が再び持ち上がっているのは、リーマンショック以降に、何でアメリカは住宅バブルが起きてそれが崩壊して、リーマンショックが起きて世界的な不況になってしまったかということの反省として、銀行がお金バンバン創ってそれを投資に回してるから景気が過熱しすぎてバブルになるんじゃないかという指摘があって、アメリカではその文脈で主に貨幣制度を変えて、100%準備にしたほうがいいんじゃないかというふうに言っている人が結構います。なので、あまり日本ではマイナーな話ですが、決して欧米ではマイナーではないということを、まず言い添えておきたいと思います。
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松尾:ヨーロッパの反緊縮左翼もそういう文脈で、100%準備にする、預金創造をなくすという主張をしている人たちが多いですね。今言ってくれたように、私自身も漠然と考えていたのは、私の提唱している政策でもいいし、安倍さんの政策で現実にやってるんですけれども、中央銀行が創ったお金で事実上いろんな政府の支出に使っていくと。そうすると、景気が良くなってインフレがひどくなってきたらそれはやめるんですけども、そのときインフレを抑えるために、中央銀行が国債を売ってお金を捻出するということもしますが、それはあまり売るのが多いと、結局それを返すために、期限が来たらお金返すために政府支出をしなきゃいけないということになってしまうので、国庫に対して財政の負担になりますよね。だから、売りオペと言いますが、中央銀行が手持ちの国債を売るというのは、あまりやりすぎることができないということで、ある程度で抑える、国庫にあまり負担を掛けない程度で抑えて、残りの部分というのは預金準備率を、先ほどの預金準備率を上げることによってインフレを抑えるということにする。それでインフレを抑えることができるんだけれども、やがて景気が悪くなることがあるかもしれないですよね。そうするとまた政府が中央銀行の創ったお金で政府支出をして景気を良くする。そうするとまた、やがて景気が良くなったときにインフレになって…ということを繰り返していくと、繰り返していくうちにだんだんと預金準備率というのが…
井上:上がっていきますよね。
松尾:上がっていくということによって、長期的にそれが達成できるかなという。
井上:私もそんなふうに考えています。
松尾:そういう意味でいいですかね。
井上:はい。
松尾:はい、分かりました。ということで、とりあえず意見が合ったということで、とりあえず今日の一個は終わりたいと思います。
◎概要
対談企画 松尾匡×井上智洋
「ひとびと」のための経済 そして ベーシックインカム
日 時 2017年8月27日(日)13:45(受付13:15)~17:00
会 場 関西学院大学大阪梅田キャンパス 1004教室(K.G.ハブスクエア大阪10階)
大阪市北区茶屋町19-19アプローズタワー
共 催 ひとびとの経済政策研究会、ベーシックインカム勉強会関西、市民社会フォーラム
チラシ bi-leaflet-ver2-03
【対談】
松尾匡氏:立命館大学経済学部教授
著書『不況は人災です!』『自由のジレンマを解く』『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』
井上智洋氏:駒澤大学准教授
著書『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』『ヘリコプターマネー』『「人工知能」-生命と機会に壁にあるもの-』